編集委員の声

[137] 新刊『この『くに』の面影』編集を終えて

投稿者
WEB多事争論編集委員 吉岡弘行
投稿日
10/09 08:48

早いもので、あとひと月で筑紫哲也さんが亡くなられて1年になる。
去年の今頃は、バラク・オバマが大統領になることも確定してなかったし、日本の政治がこんなにダイナミックに変わろうとは予想もしなかった。
鳩山新政権が誕生して様々な分析や論評が大手新聞社の紙面や月刊誌などを賑わせているが、WEBリニューアルの目玉として協力いただいた藤原帰一さんの「私の多事争論」(全3回)は、そのどれよりも読み応えがあるものだと思う。私はプリントアウトして何度も読み返している。

その藤原さんと共同で編集したのが、日本経済新聞出版社から9月25日に発売された『この「くに」の面影』(筑紫哲也著)である。
担当編集者の西林啓二さんから最初にお話をいただいたのが7月16日。筑紫さんの二女・ゆうなさんから「ぜひ吉岡さんも手伝ってほしい」という依頼もあった。
本の仮題は、『筑紫哲也のラストメッセージ』だった。
これまで日本経済新聞出版社からは、『この「くに」のゆくえ』『この「くに」の冒険』など「NEWS23」での筑紫さんの多事争論をまとめた本が、三冊出版されている。
しかし、このシリーズも1997年12月からストップしていて、実に約1200回分の多事争論が未収録のままだった。
1回を1ページとするとかなりぶ厚い本になってしまうので、今回は、最後の生出演で放映された2008年3月28日の「変わらぬもの」から時をさかのぼって2006月1月までの150回分を収録するということだった。
そして、ご本人が亡くなられて初めて「筑紫哲也」の名前で出す本なので、がんを患ってから書かれた様々な言論もうまく収録して「ラストメッセージ」の名にふさわしいものにしようということになった。

当初の構成は、【プロローグ】として、この「WEB多事争論」の発刊時(去年8月1日)にアップした「この国のガン」とその後に未完のまま終わったジャーナリスト・鳥越俊太郎さんとの「往復レター」。そして【第1章】には、「WEB多事争論」でリンクをはっている「ぶらっと!」に2006年10月から2008年5月まで掲載され、これまた未完のまま終わった『始終至智の旅』。【第3章】は朝日新聞社の「アスパラクラブ」に連載された「筑紫哲也の緩急自在」。【第4章】には、筑紫哲也さんが師と仰いだ政治思想家の丸山真男に関連した「講演録」を藤原さんがピックアップして編集。150回の多事争論はテーマごとに整理して【第5章】とし、序文に藤原さんの文章を掲載する――――というものだった。

私は、お手伝いに加わるという感じだったのだが、8月末に本の題名のキーワードとして藤原さんが「面影」という言葉を提案されてから、大きく局面が変わった。
西林さんに「実はジェノバ・サミットが終わってひと月後に、私の故郷の松江で筑紫さんと脚本家の山田太一さんが対論をし、まさに『この「くに」の面影』と題して放送したことがあるんです」と話した。
「それなら、一度、見せてください」ということで、私が残していたキャプションを西林さんと藤原さんに送ったところ、「非常に面白い内容なので、是非、エピローグに収録しましょう」ということになった。しかも藤原さんから「吉岡さんも編者として名前を連ねて、あとがきを書いては」という滅相もない話になってしまったのだ。

それからが大変だった。山田太一さんにOAを起こした対論を送って許可を仰いだのだが、「このまま印刷物として記録に残るのであれば、少しわかりやすいように加筆・訂正したい」と言われ、都合5回にわたって吉岡と山田さんの間でファックスのやり取りをした。
(山田さんも筑紫さんと同じように「“手書き”の人」である)
そして、藤原さんの序文と重ならないように「あとがき」として「縁結び」と題する文章を執筆し、『この「くに」の面影』は完成した。中身もさることながら、約450ページで1905円(税別)というとてもお買い得な価格になっている。

是非とも多くの人に手にとっていただけたらと思う。

(なお、11月7日の一周忌に向けて、あと2冊、“筑紫本”が出版されます。
ひとつは集英社の雑誌『青春と読書』に筑紫さんが連載していた若者向けのエッセイをまとめた新書。もう一冊は朝日新聞出版社がMOOK特別版として刊行する、その名も『筑紫哲也』という本です。
後者は、井上陽水さんや坂本龍一さんといった筑紫さんと親しかったミュージシャンへのロング・インタビュー。小澤征爾さん、瀬戸内寂聴さん、姜尚中さん、和田アキ子さんらのエッセイ。筑紫さんの愛した本や映画の話等々がぎっしり詰まっていて、今月25日発売予定です) 
 

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