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[14] <恐るべしヒラリーの復活>

投稿者
井上波
投稿日
2009/3/6 9:19

2月17日、東京大学。約300人の学生が拍手で迎える講堂に入った途端、ヒラリー・クリントン国務長官の顔がパッと華やいだ。朝の明治神宮参拝に始まって、まさに分刻みのスケジュールなのに、疲れた様子を一切見せないどころか、一般の人々の前に出るとパワーアップして、心から楽しんでいるような、いい笑顔を見せるのだ。会場はすっかり彼女のペース。私は思わず「この人やっぱりただ者じゃないわ・・・」とつぶやいていた。

「もっとも高く分厚い“ガラスの天井”を破ることは出来なかったけれど、1800万(票分)の亀裂を入れることができました。」去年6月8日、ヒラリー・クリントンはそう言って、大統領選から撤退した。半年前までは断トツのトップだったのに、オバマという“時代の寵児”が生み出した大きなうねりに抗うことはできなかった。
「この人がならなかったら、当分アメリカに女性大統領の誕生は無いだろうな・・・」そう思うと、女として何だかとても残念な気分になったのを覚えている。

そのヒラリーが表舞台に帰ってきた。しかも国務長官として。最初は「自己主張の強い彼女が、ひと回りも年下の大統領をちゃんと立てて仕事が出来るのだろうか?」とも思ったが、初外遊の同行取材をして考えが変わった。
ブッシュの8年間ですっかり威信を失ったアメリカには、きっと彼女のような強烈な“顔”と“声”を持つ人物が必要なのだ。中東和平にイラン・北朝鮮の核や拉致問題・・・どれもそう簡単に解決するはずはないけれど、「この人なら何かを変えてくれるかもしれない」という空気を作り出すことが、進展への第一歩になるのだと思う。
「ひょっとしたら、いつか大統領の夢だって実現してしまうかも・・・」そう思わせてしまうほど、
今の彼女はパワーに満ち溢れている。

さて、問題はそのヒラリー長官とどう渡り合っていくかだ。
タイミングの悪いことに、彼女の来日中に中川大臣が“もうろう会見”で辞任。アメリカ人の同行記者は私に「日本って総理大臣とか大臣がやたらと代わる国だね・・・」と呆れ気味に言った。民主党・小沢代表が会う会わないで二転三転したのも、理解に苦しんだようだ。
 “日米関係はアジア外交の礎”という言葉に嘘は無いだろう。アメリカが今後アフガニスタンや環境問題などあらゆる場面で日本の協力を求めてくるのは間違いない。しかし、本当の意味で“イコール・パートナー”となり、モノが言える関係を築くには、今の日本の政治状況では不安だと言わざるを得ない。あと数ヶ月で代わってしまうかもしれない相手に、どれだけ本音を明かすことができるだろうか。
“ヒラリーの初外遊”や“オバマのホワイトハウスに一番乗り”で浮かれている場合ではない。




ワシントン支局 井上波

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