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[16] 「分かち合い」

投稿者
萩原豊
投稿日
2009/3/9 9:49

 ロンドンでは、凍てついた空気が少し和らぎ、クロッカスが可憐な花を咲かせ始めました。重く暗い英国特有の冬も、ようやく闇の終わりが見えてきて、街を歩く人々の表情も、少しばかり明るく感じられます。
 先月、オランダに二度、取材に出かけました。他支局の担当国であり、ロンドン支局に赴任してから三年の間に、一度も機会がなかったのが、偶然に重なるとは不思議なものです。一つはトルコ航空の墜落事故。もう一つは、ワークシェアリングがテーマでした。
 「ワークシェアリング」。取材に当たる前は、オランダという特殊な国の、特別な制度だろうと、若干偏見を持っていたことは否めません。それが、企業や人々などの取材を進めると、「パートタイム労働」が、ごく当たり前に受け取られていることに驚きました。「週休3日」の警察官もいるのです。ワークシェアリングが、オランダに導入されたのは、実に三十年近く前。当初は、政府・企業・組合の三者が、雇用創出を目的に始めました。

その結果として、この制度は、高い失業率を改善するとともに、働き方の多様性まで生み出しました。パートタイムによって、育児や趣味などの時間を確保する人々も現れたのです。様々な課題はあるにせよ、オランダは、「世界で最も働く人を大切にする国」と言われるまでになりました。
 日本では、パートタイムの前提である「同一賃金・同一待遇」を確保できないために、導入は難しいとされています。しかし、`危機`だからこそ、制度を導入に向けて本格的に動く`チャンス`ではないでしょうか。もちろん、導入当初は、日本ならではの、多くの課題が出てくるでしょう。オランダでも、三十年という年月をかけて、フルタイムとパートタイム労働者の差別禁止法などを制定し、制度の不具合を細かく修正してきました。

 北欧の制度、例えば、政治家のカネをめぐる情報公開制度、福祉・医療制度なども取材しましたが、頭の片隅には「日本への導入は難しいだろう」という考えがありました。いまどき「欧州を見習え」でもありません。それでも、政治や行政が健全ならば、新たな制度を導入し、軌道修正しながら「日本型」に築き上げていく、あるいは、効果が無ければ廃止する、そんなことができると思うのです。
 「分かち合い」という言葉は、「勝ち負け」や「生き残り」という言葉よりも、日本人にしっくりくるような気がします。近い将来、日本が「世界で最も働く人を大切にする経済大国」と呼ばれる日が来て欲しいと心から思っています。

ロンドン支局 萩原豊

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