報道人

No.29に関するツリー

[29] 「HIDEO NOMO(ヒデオ・ノモ)!」

投稿者
大友淳
投稿日
2009/3/19 11:13

「HIDEO NOMO(ヒデオ・ノモ)!」
WBC第二ラウンド、日本対キューバ戦。(サンディエゴ)
スポーツ専門局ESPNが全米向けに生中継したこの試合の途中、実況アナウンサーが
昨年大リーグを引退した野茂英雄投手の名前を挙げた。
先発の松坂やイチロー、福留など今や数多くの日本人現役大リーガーがいるが、最初に先陣を切って大リーグに乗り込んだのは「HIDEO NOMO」だと・・・。
今の日本人選手の大リーグでの活躍は彼なしでは考えられない、ということを言うために野茂選手が2度達成したノーヒットノーランの試合のVTRを紹介し、「パイオニア」としての野茂選手の功績を称えた。実況生中継中、異例とも言える取り上げ方だ。
 この実況中継を見ながら私は何故か「オバマ大統領と似ているな」と思った。
これは決してオバマ大統領のトルネード投法で投げる姿が野茂選手と似ているという
意味ではなく、ましてや野茂選手のツッケンドンな応対がオバマ大統領と似ているという訳でもない。
二人とも「アメリカンドリームを追い求めるパイオニア(開拓者)」に対してのアメリカ人の強い尊敬の念を受けた(受けている)という点についてである。
野茂選手は日本人選手の大リーグ進出へのパイオニアであり、初の黒人大統領オバマ氏は多民族国家アメリカのパンドラの箱を開けた。だからと言っても日本人選手は今でも大リーグでは少数派であるし、黒人大統領が誕生したからと言っても人種差別が減った訳でもない。だからこそ「開拓者」として持ち上げられ期待されているである。
 
 そのオバマ大統領が就任して間もなく2ヶ月になる。
経済危機は、もはや経済合理性や市場経済の自然治癒力で復活できる領域を遙かに超えた。
まさに「政治」の力が必要とされている今、オバマ大統領には真の手腕が求められている。
しかしオバマ氏が大統領になるまでのものすごい「モーメンタム(momentum)=勢い」は今はない。そしてそれだけで乗り切れる現在の状況ではない。

「捨て身になれない政治家はだめだ」
日本の政治取材をしていた頃ある政治家から聞いた言葉だ。
果たして日本で「捨て身になれる」政治家が何人いるかは疑問だが、それはそれとして
捨て身になれない政治家には人はついてこないし、言葉に説得力もない。
オバマ大統領が目指す「チェンジ」を達成するには、4年後の選挙や党のしがらみは勿論、人種や社会保障制度改革などで、オバマ大統領がどのくらい「捨て身」になれるかにかかっている。言うまでもなくアメリカは移民の国であるが、移民はもともと「捨て身の覚悟で」この新大陸にやって来たのだから国民の目は厳しい。 ニューヨーク在住の作家ピート・ハメル氏が著書で移民の掟について「赦せない罪はただ一つ。自分を憐れむことだ」と述べているがアメリカ国民にとって現状を憂えうだけで捨て身になれない指導者は受け入れられないのだ。

ところで野茂選手は昨年引退した。絶頂期でやめるという美学は彼にはなく、
最後まで現役にこだわり続けた。過去の栄光やプライドを捨て数球団を渡り歩き「捨て身」で最後まで野球を続けようとした。最後はボロボロだった。
しかし派手な引退セレモニーもなく球界を去った彼に対して今、アメリカで賞賛の声が送られている。
 一方、就任二ヶ月では想像すらできないがオバマ大統領が辞めた後には果たしてどのような評価が下されるのだろうか。
現在のオバマ大統領への支持率は62%。(CBSテレビ3/17)
期待が大きい分失敗した時の落胆が大きいのは重々承知の上でアメリカ国民はオバマ大統領が今後何をするのか静かに注視している。

ニューヨーク支局 大友淳

投稿する