報道人

[92] 「娘の好みと世論の動向」

投稿者
民放テレビ局記者 黒岩亜純
投稿日
09/26 10:00

今年、麻生内閣の支持率が10%台に突入していた時のこと。
テレビを見入る5歳の娘が発した言葉に、新聞をめくっていた自分の手が止まった。
娘「麻生ソ~リ、カッコい~い!」
えっ?
夫婦揃って顔を見合わせた。
その数秒後
「あ~っ、この人、麻生ソ~リの悪口いっている~」と今度は不機嫌な娘。
民主党の鳩山代表がインタビューに応じている姿がテレビに映し出されていた。
娘の機嫌を損ねない程度に、やんわりと聞いてみた...
「麻生総理...どこが格好いい?」
(娘)「声がかっこいい~!」
そうか~...。
あのべらんめえ調の語りに、娘の心は奪われていた。 
そう知ったとき、父親としては、複雑な感情にとらわれた。
場の空気を埋めようと娘に向かって、あの麻生節を、自分で真似てみた。
「(低音で)そ~うかい、では、オ~レの声はど~うだい」
「アハハハ」むなしく、娘に笑われるだけであった。

その後、麻生総理がテレビに登場するたびに、「あっ!麻生ソ~リ!」と、娘は笑顔で飛び跳ねる。
将来、どんな男を家に連れてくることになるのかと、ついつい思いをめぐらせてしまった。
後日、知人に「娘が麻生総理に惚れ込んでいる」と話したら、
「子供の教育が悪い...」と、笑われた。

その麻生総理の熱狂的ファンだった娘。
自民党が歴史的大敗を喫した後、
父親のめくる新聞をみながら、聞いてきた...。
「この人、鳩山代表?」
私「そうだよ、どうして~」
娘「麻生ソ~リよりもいいかも~」
えっ~?

連日、テレビは麻生総理の苦々しい表情を映し出し、対照的に、鳩山代表の笑顔を映し出していた。
総理の座に誰がついたのかを悟った5歳の娘。
なんの未練もなく、権力の座から引きづりおろされたものはスパッと切り捨て、新しく誕生した権力者に好意を抱きはじめていた。
あ~、娘は将来、どれだけの男たちを泣かすことになることやら...。いやいや、今、そんなことを考えなくてもと、じゃれてくる娘に、笑顔を向け、心を落ち着かせようとしていた。
それにしても、たった5歳の娘の変節ぶりには、驚いた。
でも、考えてみたら、我が娘だけではなかった。

麻生内閣が誕生した2008年9月。
各社の内閣支持率では国民の半数前後が麻生内閣を支持していた。
その一年後の今月、麻生総理どころか、自民党に見切りをつけた大半の国民は、鳩山政権を誕生させることに心を躍らせた。
そして今、鳩山内閣の各報道機関の支持率は、70%台~80%台という圧倒的な国民の支持をみせる。

歴史が変わったあの8月30日。民主党が300議席を超えるという事実に、驚きよりも恐怖を覚えた。
一つの方向に世論が流れるとき、一気にその方向へと傾くこの国の体質に。
今の選挙制度がそれを助長させているのも事実だが、それ以上に、助長させているのは、他者と歩調を合わせ、時流に乗ろうとする、我々の国民性の問題なのでは、とも思えてしまう。 小泉純一郎が「郵政民営化」と、高らかに宣言し、それを支持した一人一人がつくった、あの熱狂的な空気は今、格差を生み出した小泉改革の批判の渦へと様変わり。 私は無党派...。そう断った上での考察であり、どこかの政党を擁護するために語っているわけではない。

小泉支持なら、支持するほどのクリアな国家像がみえていたのか。 安倍晋三・福田康夫・麻生太郎、それぞれに国を託してもよいと思ったのには、どんな根拠があったのか。一点して、鳩山代表に心が傾いたのなら、それは将来のどんな国の姿を夢みてそう思ったのか。
一人一人が精査する時間、点検作業を怠れば、時代の流れにただただ身を任す危険な選択が繰り返されていく。

あっ、我が娘よ。 誤解しないで欲しい。 あなたの男の好みを批判しているわけではない。 
お父さんは、世に向かっていいたかっただけなのさ。

この文章を娘が読めるころには、彼女も、そして世論も、成熟した姿をみせてくることを期待しつつ..。

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