報道人

[97] 泡瀬に思う

投稿者
報道ディレクター 鈴木康仁
投稿日
10/23 01:16

「土地利用計画の全容が明らかとなっていない現段階においては、
これに経済的合理性があると認めることはできない」

これは10月15日に出された、
沖縄県の泡瀬干潟埋め立て事業をめぐる控訴審判決だ。
これで一審、二審ともに、
事業に税金を使うことを違法とした。

一取材者として思う。
「当たり前の判決が、当たり前に出された」と。
しかし、忘れてはいけない。
これと同じ判決は、昨年の11月にすでに出ていた。
それにもかかわらず、
国と沖縄県は控訴していることを理由に、
事業を中断することなく続けてきたのだ。

最終的な司法の判断が出る頃にはすでに、
埋め立てが完了し、
裁判そのものに意味がなくなる可能性もはらんでいたのだ。

護岸から見る限り、
泡瀬干潟は「都会の汚い海」としか見えなかった。
しかし、実際に海に入ると生命の豊かさに驚かされる。
たった一歩踏み出せば、そこにいたのは無数の小さな貝、
さらに踏み出せば、もぞもぞと動くミナミコメツキガニの大群。
裾をめくり亜熱帯の暖かい海水を感じながら
数十メートル沖に歩けば、
沖縄の古民家を思わせる赤瓦にそっくりな貝や
海草、小魚の群れを見ることができる。
絶滅危惧種や天然記念物も、そこかしこにいる。
いつの間にか、ヘドロの臭いも消えていた。

「都会の汚い海」ではない。
ここは浄化作用を持った、南西諸島最大の豊かな干潟なのだ。

埋立区域内には沖縄本島周辺では、
ほとんど見ることができなくなったエダサンゴも群生していた。
埋め立て事業は豊かな干潟と、それに続く貴重な浅海域を
一変させるものだ。


泡瀬干潟を埋め立てて、
一大リゾートにする計画が立てられたのは
バブル時代のこと。
しかし、バブルは崩壊し、計画は非現実的なものとなる。
沖縄市は計画の見直しを迫られ、
事実上、計画が白紙のなかで埋め立て事業は継続されていった。

主な事業主体である国の責任も、
看過できるものではない。
当初、国は計画に実現性がないとして事業を認めなかった。
だが、その後、一転して事業を認める。
理由は隣接する特別自由貿易地域の整備にある。
この地域の港を浚渫するときに出る土砂を
捨てる必要があったのだ。
つまり、土砂の“捨て場”として
泡瀬干潟を埋め立てていることになる。

ちなみに沖縄振興策の一つでもあるこの地域も、
干潟を埋め立てて造成されたが、
企業誘致は進まず、雑草が生い茂る。
事実上、計画は失敗に終わっている。

「米軍基地に土地を取られて、開発の場は海にしかない」。
取材中、良く耳にする理屈だ。
沖縄県民が多大な負担を強いられているのは
紛れもない事実である。
ただ、これまで沖縄市にあるいくつかの
米軍施設が返還を検討され際、
継続使用を求める地主の強い意向で
返還にいたらなかった事実も指摘したい。
「基地の存在=海を開発」。
構図を単純化させてはならない。

リゾート計画が破綻したいま、
推進派は「沖縄市民悲願の人口ビーチを」と
その目的を変えた。
自然との共生をうたえないリゾート計画が、
いまの時代に支持を得られないのは言うまでもない。
事業費約500億円をかけて、
人口ビーチを造成するのはブラックユーモアである。
目的を変更しても事業が進むのは、
公共事業の典型的な例だ。

沖縄の人・文化・風土・歴史・環境(料理以外ほぼすべて…失礼!)が好きで、
一時期、沖縄に移り住んでいた者として、
また取材者として、国と県と市に問いたい。
泡瀬干潟を埋め立てることが、
本当に沖縄の発展につながりますか?
国民の税金を投入することに、国民の理解を得られますか?
と。

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