「政権交代は私たちに何をもたらすのか(III)」
~自民党と政界のゆくえを『見ていく』~

「自民党」については、“オン・ザ・ジョブトレーニング”で、結局クビが切られて無くなったのに、クビがあるつもりで歩いているのが現在の自民党ですから、まだまだ、壊れるでしょう。傷の重さに気がついていないんです。
「自民党」というのは、簡単に言いますとね、あれは、政権をたらいまわしをすることで成りたっていた“保守小政党”、つまり“派閥の集合体”なんです。これが成り立っていたのは中選挙区制があったからで、中選挙区制が終わった段階で、派閥の基礎って無くなっているんです。
そしてこの政党は、予算の配分によって成り立っている政党でしたから、だから、予算決定からこれで4回追い出されますからね。「民主党」はどんなことがあっても議席にしがみつきますよ。そうすると(自民党は)予算から外されちゃったら、瓦解しますよ。非常に簡単に瓦解します。
今度、「民主党」が“与党”になりましたから。“与党につかないリスク”っていうのは大きいんですよ。予算をもらえないところですから。だから私は「むしろ、(今後)地方で民主党への“雪崩”が少しずつ起こってきて、そのために、選挙(来年の参院選)の結果が、『民主党に有利な方に動く』」と思います。
ただね、その先なんですよ。つまり、「自民党の再生」とかいう話ではなくて、政権政党という、政権を独占する政党として立ち行かないってことがはっきりわかった段階で、「旧・自民党の政治家がどう動いていくのか」という、問題はそっちの方なんですよ。
色んな可能性があって、僕は、前よりも“右翼の政党”になると思っていますけれども。というのは、政権から外れてしまうと、自民党は、“政権政党という側面”と“右翼の政党という側面“と両面持っていたわけで、”右翼“だけですと、実は有権者はついてこないんです。過激だから。
で、「憲法改正賛成」とか「日本の伝統を」とかって、そこまで人がついてくる言葉じゃないんです。だけど与党についていないと大変だから、ついていこうと思っていた。でも、与党っていうところが抜けちゃいますとね、結局、イデオロギーの“保守性”を正面から押し出す方向に動いていくでしょう。

だから、「自民党の(再生の)ために何を思うか」という問題以前に、そうなりますよ。政権から外れた政党がどんなにみじめなものかってことがわかったところで、「自民党の再生」っていうのは、もう「別政党として作る」ようなことになっているんだってことが、だんだんわかってくると思います。放っておいたってそうなります。
で、「民主党が権力を独占することを認めていいかどうか」とか、そんな話があるわけでしょ。そんなことにはなりゃしないですよ。民主党はそこまで強い政党じゃないですし、今、議席はたくさん持っていますけれども、だけど、それを支えるだけの力を今持っているわけじゃないんです。
民主党の弱さは、外交だとかなんだということじゃない。政策の過程で色々トラブル出てきますよ。そこのところで、あげ足を取るだけじゃなくて、「こっちの方が魅力的だよ」というような組織が出来上がれば、それは簡単に(国民の支持は)そちらに行くでしょう。小選挙区制ってのはそういうものです。
「二大政党制」っていうけど、「“振幅の幅“が大きい」のが「二大政党制」だし、「小選挙区制」だし。 93年みたいなことにはならないでしょうね。93年の時には、自民党がやはり一番大きな政党だったわけで、その自民党じゃない政党が一生懸命連立を組んだっていう感じでしょ。今度は民主党が圧倒的に強い議席を持っていますので、93年の繰り返しにはならない。
「政治に対する“失望”」は、常に「政治に対する意見では“多数派”」なんです。今度も率直に申し上げて、民主党に対する期待が非常に高まった選挙だとは思わなかった。むしろ、自民党に対する“失望”、あるいは“嫌悪”が民主党に流れた選挙だった。
放っておくと、この4年間、これでもう「民意を代表しているんだ」というふうに、民主党が仕事をしなくなったら、支持率がどんどん下がって、下がったために国会の解散ができなくなる。特に、来年の参院選で勝ちますとね、「もう強いんだ」と。「その強さにおぼれてしまう」。で、仕事をしなくなって、支持率は下がる。スキャンダルも出てくるでしょう。
そうすると、数字が低すぎるから解散が出来なくなって、そのために4年間しがみついたということになる。
これは他の国にも例はあって、「大統領制」と「議院内閣制」の違いはありますけどね。韓国の大統領って、いつも当選した時はもの凄い支持率で、あそこは早くて、わずか2~3週間の間に下落するんですよね。そういう振幅の激しい状況になる可能性はあります。

ものに見向きもしなくなるという事態になるのでは――そんな疑問に対して藤原氏は次のように続ける。
当選しなかったらやっていけないので、その意味では政治家は「有権者におべっかを使って(有権者の)言うことを聞く」ということをせざるを得ない立場にあるんです。その点では、今度の民主党は、有権者との約束を“書生”のように守ろうとしている点で、非常に新鮮なイメージがありますね。実際、“勉強家”の集まりですからね。“勉強家”で“真面目”で、悪く言えば、“世間を知らない”ともえる。だから世間を知っている人から見ると、「こんなトーシローに出来るかよ」っていう話になる。
そして、有権者は確かに移り気で、気まぐれです。瞬間風速で支持率が7割を超えた政権だって、ひと月足らずで支持率二割を割り込むことになりかねない。その隙を捕まえて新しい勢力だって登場するかも知れません。いまの自民党では無理でしょうが、イタリアの例でいえばベルルスコーニ、あるいはタイのタクシンのように、異業種から政治に入り込む指導者が現れるかも知れません。世論が政治への期待と政治不信の間を激しく揺れ動く時には十分に考えられる現象です。
じゃ、そんな末路は避けられないのかといえば、そうとは限らない。政治への期待が高すぎる状況も政治不信ばかりが強い状況も政治のあり方としては普通じゃないわけで、熱狂的支持も内閣不信任への公共も高揚もともに望ましくはない。変な言い方になりますが、鳩山政権の目的は高支持率の維持であってはならないんです。むしろ、プロに任せておいても一応は大丈夫だという最低限の信頼が生まれて、過度な期待も過度な不信も見られない状況こそが政治の目標としては望ましいんですよ。
で、その状況をつくるためには、改革を訴えるだけじゃなくて、改革路線の定着を図らなければいけない。そのためには、大きな目標のここまで実現しました、次はここまで行きますと、改革の進展を世論に示し、信任を得る必要があります。その柱は子育て支援と年金改革でしょうね。そこで成果を示すことができるなら、五割前後の支持は固い。一定の支持を確保している状況さえあれば、世論調査の数字に一喜一憂する必要もなくなります。これから三ヶ月にそこまで行けるのか、問われるところでしょう。(了)
Re:「政権交代は私たちに何をもたらすのか(III)」
- 投稿者
- aβ
- 投稿日
- 2009/11/04
民主党についてですが、民主・自民間には決定的な違いが一つあります。民主党には労組(連合)からの支持があるという点です。もちろん財界との接点もあるわけですから自民党的な色合いが無いわけではありません。しかし、一昔前までは完全に形骸化していた、少なくともそういう印象が強かった労働者から成る組織が与党と密接な関係を築いている現状をみると、財界はかつての自民党との癒着とも思える関係を与党と結ぶことは今後難しくなるのではないかと思います。もちろん現在の民主党が今後もその在り方を変えなければの話ですが。
冷戦が終結する頃までは財界は自民党を、労組は社会党を支持するという形式が定着しており、ソ連崩壊と共に社会主義政党はその存在基盤が大きく損なわれました。小沢一郎が自民党を離れ、93年の細川内閣成立に関わることになった一つの要因は、日本の政界を冷戦後の世界に沿った、少なくとも従来よりはダイナミズムを持ったものに変えていく必要性を感じた為と聞いています。それから16年、更に変遷を経て日本に新しい政党をを形成して今日にに至ったことを考えると、冷戦終結や国内の景気後退といった世の中の大きな変化の中で、従来の与党を補完するような第一党ができたと言えるのではないでしょうか。自民党と同様に大所帯の政党であり、更に財界のみならず一定の労働者層からの支持も得られる民主党は、ある意味で自民党よりも完成された政党かもしれません。様々な層から満遍なく支持を獲得しているという民主党の在り方を見ると、中選挙区制時代の自民党が派閥間で利害の調整を行なっていたのと非常に似ていることを現在に適合した形で行なおうとしている党なのではないかと思わされるのです。
結局のところ、民主党は自民党に取って代わる存在を目指しており、形成された動機やその理想とするところは決して欧米的な「持つ者・持たざる者」の利益を代弁する二大政党制を実現するということではなかったのではないでしょうか。政治を歴史的な流れの中で捉えると、少し視野が広がった気がします。
政権交代は私たちに何をもたらしたのか?
- 投稿者
- 長文
- 投稿日
- 2010/04/04
政権交代から半年が過ぎました。
マニフェストに関しては実現度は別としても、マニフェスト中心の議論がなされるようになり
予算のあり方や陳情の方法、権力の配置などが藤原さんの仰るように変わってきたと思います。
自民党に関しても、かつて下野した時のように次々と離脱者を生み、壊れ始めています。
藤原さんの論の通り、政権交代したことで変わったことは数多くあると思います。
しかし一方で、藤原さんが想定していた5割前後の支持率は割り込んで
会社によっては、4割を割るところまで来ています。
普天間の問題は拗れに拗れ、温暖化ガス25%削減は数字以外の具体性が未だに見えない異常な状態です。
子供手当ては各閣僚から満額は無理だとの意見が散見されるようになり、
財源の議論では自らの「消費税は4年間上げない」発言が重石になる始末。
アフガン問題などはとうに忘れ去られ、国際支援に関しても足元が定まりません。
リーダーである首相の言葉の軽さも酷すぎる。
民主党は自身が責められた時の擁護行動と、選挙対策に関わる行動だけはやたら迅速です。
小沢さん中心の民主党は自民党との違いが次第に見えなくなり、
結局政権を取った党が「自民党」になってしまうのかとも思えてしまいます。
個人的にはいつまでも「自民vs反自民」の亡霊に取り付かれているようにも感じています。
第三極も生まれつつありますが、結局は理念なき行動に変わりはありません。
このままでは「移り気な不信感」ではなく、本格的な政治不信が始まるように思えます。
藤原さんが基準に出していた3ヶ月は既に過ぎましたが、
今後も「見ていく」必要はあるのでしょうか?
もし「見ていく」のであれば、今後はどこを見ていけばいいのか、各政党はどうあるべきなのか
特に民主党に関してはどう「見ていく」のか
藤原さんの論をお聞きしたいです。
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