拡大版 沖縄・慰霊の日
『いのちとくらし』
(1998年11月13日)普天間基地の金網がずっとすぐそばにあるわけですけれども、この向こう側がずっと基地が広がっているわけです。なぜこの普天間基地の移転問題というのが大きな課題になったかというと、実はある意味では、この基地は沖縄の中で、もっとも危険な基地です。どういうことかと言いますと、この周りはもうびっしり普通の市民たちが暮らしているわけで、ここで一旦何か事故があったら、相当に恐ろしいことになる。日米両政府とも、この基地の移転問題を最優先した背景にはひとつはそのことがあります。つまりこわい基地なんです。
さてそういう中で沖縄の知事選が何回目かを迎えているわけですけれども、実は沖縄の人たちが自分の地域のリーダーを選ぶことが許されたのは、30年前、首席公選という形でありました。それ以来何回も知事選挙が繰り返されておりますけれども、いろんな変転がありましたが、しかし基本的な命題と言いますか、テーマは変わっていないのではないかと、ずっと眺めてきた身として思います。それを一言でいえば、「いのちとくらし」の問題です。
人間にとって命を守ること、そして暮らしを立てるということは一番基本的な部分ですが、しかし沖縄の場合は、その内のどちらに重点を置くかによって、厳しい選択を迫られてきた。つまり、外国の軍隊が非常に特権的な形で、しかも島の中央に居座っている。そしてそこでいろんな事件が起きる。だけではなくて、戦争のにおいが絶えずする。今イラクが緊張しておりますけれども、その緊張がすぐ伝わってくるのも沖縄の基地です。そういう中で、命の問題をどうするかということがひとつあります。
しかしこういう基地がなくなることは、ほとんど県民の全体のコンセンサスといって良い願いだと思うのですけれども、その後の暮らしをどうするかという問題があります。そこでいろんな選挙、知事選挙の度に命の方に重心を置くのか、あるいは暮らしの方を考えるのかという重心の移動がありまして、その都度、知事の顔ぶれというものが決まっていった。そういう部分がございます。そして今度はどう選択をしようか。特に不況の中で暮らしの部分のウエイトが非常に大きくなっている。そういう中で沖縄が選択を迫られているわけです。
沖縄は日本のひとつの県に過ぎない。よく、なぜ沖縄だけをそんなに大きな問題として取り扱うのかという声がありますけれども、しかしよく考えて見ると、命を取るのか、暮らしを取るのか、しかもどちらも人間の尊厳というものがかかっています。ただ命があれば良い、ただ暮らせれば良いというものではありません。そういうものがかかって、そういう選択をさせられている県が、よその県のどこにあるでしょうか。沖縄の問題というのは、そういう意味でも、私たちの国の姿を映し出している、私は鏡だと思います。
『ガマの明暗』
(2004年6月23日)沖縄本島での地上戦闘は、ここ読谷村に米軍が上陸して始まりました。日本軍は住民を助けませんから、住民たちはガマと呼ばれる天然の洞窟に身を潜めました。
その1つが、このチビチリガマですが住民およそ140人のうち83人が自ら命を絶ちました。肉親同士が殺しあう凄惨な地獄だったといいます。捕虜になる前に自ら死を選べと教育されアメリカ人は自分たちを皆殺しにする鬼のような存在だと教えられていたからです。沖縄戦の悲劇を伝える場所として、ここには多くの人が訪れますが、もう1つあまり人の行かないガマがあります。
チビチリガマから1000メートルしか離れていないこのシムクガマには、およそ1000人の住人がいましたが、ほぼ全員が助かりました。何故か、答えはここにあります。住民の中にハワイ移民の帰国者が2人いて、アメリカ人はそんなにむやみに人を殺さないと住民を説得し、米兵と掛合って投降したからです。
2つのガマの明暗を分けたものは何なのか、ここに来るたびに悲痛な思いを込めて考えさせられます。皇民化教育。全ての国民は天皇の為にあるという教育が沖縄戦の悲劇を増幅させたとよく言います。
ハワイ移民という、その場違いにいた存在の為に一方は助かったということですが、教訓はそれに留まるとは私には思えません。1つの考え方に社会全体みんなの心が縛られ、支配されてしまうということの恐ろしさをそれは示していると思います。憲法にしても変えた方がいいということになると、どっとそっちに流れてしまう。そういうことになれば同じことが起きないとは限りません。
『少数派』
(2005年6月23日)この16年間、慰霊の日にはここ沖縄から番組を送り続けております。どうして、そこまで沖縄にこだわるのか。批判を込めた声もあります。確かに私はかつて住んだ土地として、この地に愛着があることは個人的には認めますが、しかし、それよりもっと大きな問題は、沖縄が突きつけている少数派をどう私たちが受け止めるかという問題であります。
地上戦闘があった唯一の場所である事も少数派でもありますし、戦後はずっと米軍基地のほとんどがここにあるという事でも、本土のほかの地域とは違います。しかし、もっと大事なことは、私たちが民主主義という制度をとっている以上、少数派をどう扱うかというのは、その民主主義の中身に大きく関わるからであります。
多数決が原則でありますから、少数派というものを、いつもそうやって押しつぶしていく、あるいはその要求というものを受け入れないということを続けていくとすれば、その制度は、多数派による専制政治、民主主義といってますけども決してそれは民主的でもないということになりかねません。
そういうことを考えますと、民主主義はどういう少数派の意見をどこまで取り入れることができるかというのは、それぞれの国の民主主義の質を問うテーマであります。そのことを問い続けているのは、私は沖縄だとずっと思い続けております。
Re:拡大版 沖縄・慰霊の日
- 投稿者
- くらりん のぶこ
- 投稿日
- 2010/07/06
「いのち と くらし」 とても明確です。
メディア側は、分けて報道していると思いますが、視聴者は、まったくすっきりしません。
争点が見えてこないから、なんだか分からない→分からないから、自分に置き換えて考えることが出来ない→そうすると、沖縄など基地を抱えている所と、基地の無い所で、温度差が出来てしまう。
「いのち」は基地存続問題
「くらし」は基地依存問題
「いのち」
基地存続問題は、本土と沖縄で温度差がありすぎて・・・・ まず、この温度差を、どうにか縮めなければいけない。基地を本土に移転すれば、本土の人達も本気で考えると思うのです。
アメリカだって、「沖縄の怒り」と「本土の怒り」では対処の仕方が違うと思うのです。今回の普天間問題で分かったように 「アメリカ1番」 「沖縄2番」 沖縄は後回しなんです。
「くらし」
基地依存問題 沖縄は、基地を受け入れたことで生活水準が上がり、暮らしやすくなったのでしょうか。本土の都市のように、高層ビルが乱立し、工場地帯があり、川や海は汚染され、働き蟻のように、時間に追われた生活をしたいのでしょうか。新しい雇用を創出しなければ基地依存は改善されない。
政権が、「自民党」から「民主党」に変わっても、沖縄が1番になることが無い。
変わらない現実を語りあったり、考えても沖縄は変わらない。でも変わったことはある。
このサイトで基地問題を考えた人達は、いくら考えても沖縄が変わらないことに「イラ立ち」、「失望」すると思うのです。「失望する」ということは「失望するまで」考え抜いたのです。
だから、基地問題を考える「前」と「後」では考えた人達は変わっているのです。
基地問題は、直接的には、沖縄を変えることですが、間接的には、基地問題に関心が無かった人、分からなかった人の、何人かでも「考え」この問題を「咀嚼」しその時々に自分なりの答えを出すことなのです。
1+1=2みたいな明確な答えは存在しないのです(もっといい表現はないか!)
沖縄がアメリカを抜いて1番になることはないのだから、沖縄の人達は自分達が納得できる生活まで、本土の人たちが、なんと言おうとも、声を上げ続けなければならない、そうしないと忘れ去られてしまうから。
こぉーんなことを考えてみました。
いいでしょうか?・・・・・ 筑紫さん!
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