私の多事争論


それがたとえ1ミリでもⅠ

2010/05/12

~島と船と橋~



―お忙しいところすみません。内閣府参与を辞めてちょうど二週間ですよね?
 (お話をお聞きしたのが3月19日でした。この後、湯浅さんは、5月10日付で再び内閣府参与に就任しました。)


そうです。(辞めたのが)3月5日でしたね。

―辞められて、今どんな感じですか?

あんまり変わってないですね。内閣府にはまだ毎日のように行っています。
年末年始までの一連の対応を3ヶ月か4ヶ月かやってきて、“通年の課題”が見えてきました。ではそれをどうするのかということで、今、(役所に)投げているところです。「やるならやるということできちんと決めて下さい」と。「どうするんだ」と。言ってみれば条件闘争的なところがあります。




年末年始対策自体そうでしたけど、大臣クラスの人たちは細かいことまでは関与しません。だからまず私たちが原案を作り、(大臣クラスが)「よしこれやろう」となってから、再び、こちらで具体的な政策づくりに取り掛かります。
年末年始の頃はずっと一人で、主に厚労省に、ポンっと投げ込まれた感じでそうしたことをやってきましたが、おかげさまで、というか、通年の課題となったからかなのかな。味方も少し出てきました。政策的なものを「一緒に作っていきましょう」という官僚が出てきています。

―役所の中に?

役所の中に。彼らはなんだかんだ言って、やっぱり政策のプロですからね。その気になってくれたら、そりゃもう、ちゃっちゃちゃっちゃ作っていくわけですよ。その人たちと今、原案作りをやっています。それができたら、いよいよもってどうするのという風になります。そして、「もしそれでやるということが決まって、戻ってきてもらいたいという話になるんだったら戻りますよ」という段階です。
なので、(政府と)切れちゃいないですね。原則的なことは線引きを守りつつも、協力するところは協力すると。今までと同じ感じで関わっていけたらと思っています。
とはいえ、どの段階で“へにょん”となるかわからないから。結局この話だって「政府としてやります」っていうことが何らかの形で示されるまでは信用できないので、戻るか戻らないかという話は全く白紙の状態ですけどね。

―通年で取り組む、その具体的な課題とは何ですか?

2つあげています。一つは“低所得者の住宅政策”。あとは、我々は「パートナーサービス」って呼んでますけど、“失業者支援のための付き添い型の支援”です。付き添い型の支援自体を、職業としてちゃんと食べていけるものにする。イメージは、例えばイギリスのニート対策などでの、マンツーマンのソーシャルワーカーの仕事ですね。



今現状どうなっているかというと、古典的なハローワーク職員とか、福祉事務所職員、という人たちは、色々な社会の変化に対応できていません。
例えば今度、ハローワークに、「就労・生活支援アドバイザー」が全国で260人配置されるんですね。補正(予算)で組まれたんですけど。それから、福祉事務所にも、「就労住宅相談員」が2500人配置されるわけです。時代の変化に応じて、いま、ちゃんと手当てされていない部分に対し、きめ細かく対応するとして配置されるんですが。
しかし問題は、そこで働く人たちが“全部細切れ雇用”なんです。一年雇用、有期雇用で、非常勤扱い。年収200万円とかです。そうすると、「そんなんじゃ将来見えないから」と、若い人がその仕事に就かない。その結果、誰がその仕事に就くかといったら、ハローワークや福祉事務所のOBです。その人たちは、まあ、なんていうか、それを一生懸命やってスキルアップしていこうという風には意識してはいない。「もう定年になったけど家にいてもやることはないし、昔の同僚から声かけられたからもうちょっと働くかな」というところで関わるから、意識も昔のままだし、別にそれで何か特別なことを社会に作っていこうというのが、勿論ある人もいるでしょうけどあまり多くない。そうなると、あまりうまくいかないんですよね。

私は、イメージを持ってもらうためにこういう言い方するんです。日本の様々なセーフティーネットというのは「島」だと。だから働ける人であれば雇用保険という「島」があり、生活保護という「島」があり、で今回は、第二のセーフティーネットという「島」が出来た。―これは小さな「群島」みたいな(笑)、いつまた水の下に沈んじゃうかわからないような、かなり危うい「群島」ですが―しかし日本の場合は、その島と島を繋ぐ「橋」もなければ「船」もない。基本的に「自分で泳いで行け」と言われる。それでたどり着けなかったら、「結局たどり着く気はなかったんだね」という話で終わっちゃうと。



本当は船があったり、橋がかかっていたりする必要があるんだけど、今現実に行なわれている、“非常勤をちょこちょこと増やしていく”ということは、言ってみれば、島の周縁にちょっとずつ“埋め立て地”を作っていくという(笑)感じでね。橋でも船でもないんですよ。それで船着場を作ったからそこに上がっておいでと。だけど結局、そこに泳ぎ着けない人が出てきてしまうという、そもそもの状態は変わらないままです。
(続く)





湯浅誠 1969年生まれ

NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長、反貧困ネットワーク事務局長他。90年代より野宿者(ホームレス)支援に携わる。「ネットカフェ難民」問題を数年前から指摘し火付け役となるほか、貧困者を食い物にする「貧困ビジネス」を告発するなど、現代日本の貧困問題を現場から訴えつづける。

著書に『反貧困』(岩波新書、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞大賞、第8回大仏次郎論壇賞)、『貧困襲来』(山吹書店)、『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(同文館出版)、『正社員が没落する』(堤未果氏と共著、角川新書、2009年)、『派遣村』(共著、岩波書店・毎日新聞社)、『どんとこい!貧困』(理論社「よりみちパン!セ」シリーズ)、『岩盤を穿つ』(文藝春秋社)など。

2008~09年年末年始の「年越し派遣村」では村長を務める。2009年10月内閣府参与に就任。雇用対策本部内に設置された貧困・困窮者支援チーム(主査:山井和則厚生労働大臣政務官)の事務局長を務める。2010年3月内閣府参与辞任。
2010年5月10日、内閣府参与に再び就任。
貧困・困窮者支援チームを改組したセーフティ・ネットワーク実現チーム(主査:細川律夫厚生労働副大臣)で事務局長代理を務める。



投稿する



バックナンバー
タイトル レス 最終更新
西川美和 過渡期を生きる女性たち 0 2012/11/26 18:36
by WEB多事争論
坂本龍一「僕らが“倫理”を語るなんて」 0 04/03 17:55
by WEB多事争論
戦後66年、原発、ニッポン。 2 08/11 19:33
by WEB多事争論
平川克美 3・11後の日本へ 0 2011/04/28 13:15
by WEB多事争論
「レオニー」に託すもの 松井久子さん 0 2010/12/15 19:34
by WEB多事争論
新宿の小さなお店ベルクから 1 2010/10/16 13:00
by WEB多事争論
内田樹 メディアの定型化に 4 2010/10/29 04:57
by リッキー
藤原帰一 参議院選挙を前に 2 2010/07/11 21:07
by 長文
拡大版 沖縄・慰霊の日 1 2010/07/06 00:33
by くらりん のぶこ
それがたとえ1ミリでも 0 2010/05/12 15:40
by WEB多事争論
みうらじゅんさんからの贈り物 0 2010/03/02 20:16
by WEB多事争論
「筑紫哲也との対話~没後一周年」から Ⅰ 0 2010/01/23 13:20
by WEB多事争論
2010年のテレビに 1 2010/01/14 20:17
by whoot
「政権交代は私たちに何をもたらすのか(III)」 2 2010/04/04 08:48
by 長文
「政権交代は私たちに何をもたらすのか(II)」 0 2009/09/30 23:59
by 藤原帰一
「政権交代は、私たちに何をもたらすのか(Ⅰ)」 0 2009/09/26 10:00
by 藤原帰一