それがたとえ1ミリでもⅡ
2010/05/13
~人と制度の間の距離~
あと今度は、そういう船着場がいっぱい出来てくるのでー保護課は保護課の予算でちょこっと作る、地域福祉課は地域福祉課の予算でちょこっと作るというように-船着場が多くなり過ぎて、どこにたどり着いたらいいのかよくわからない状態になる。どこかに辿り着いて上がろうと思ったら、「ここじゃないよ」と言われて、次のどこかに泳いでいかなきゃいけないみたいな状態が現状です。
そこを“一緒に”泳いでいったり、船で“一緒に”行って連れていったりする、そういう人がいないと、「人と制度の距離」が離れていってしまうと考えています。


失業者の抱えているトラブルは、野宿の人なんかがそうですけど、「雇用問題」「福祉の問題」「住宅の問題」、人によってはここに「多重債務」と「メンタルヘルス」が加わって、何重苦のトラブルです。これは野宿の人だけの問題じゃない。それこそ派遣切りで住居を失ったり失業した人は、どんどん増えている。昨日も泣きながら電話をかけてきた人がいましたけど。
―もやいに?
私の携帯電話にね。良く事情はわからなかったんですが、とにかく長崎に住んでいて、水道が止められそうだというご夫婦。子どもが大学に行っている方なんですけどね、事業所のトラブルに巻き込まれたみたいなんだけれど。「もう食うものが無い」と訴えてくるんです。そうやって複雑にトラブルを抱えている人って、いまや珍しくなくなりました。
その一方で、さっき言ったように“色んな船着場”が出来ました。第二のセーフティーネットなんかが典型的ですけど、これが(使い方が)よくわからないんですよね。
例えば、岩手の「信用サポート生協」というところがあります。これは、行政消費生活相談員とも緊密に連携しながら、“多重債務の処理を窓口に生活再建を行なう”という、岩手県内でネットワークを作ってうまくいっているところです。全国モデルにもなっているところなんですけど。そこが、こういう相談に来る人たちが使える社会支援というのが、一体全部で何個あるのか調べました。すると、社会福祉協議会の生活福祉金とか福祉事務所の生活保護など、列挙していったら“164”あった。

―164ですか。
それこそ「高校生の就学支援基金」とか、そういうのも全部入れていくと164あると。で、本人に、「自分で選んでください。さあ、あなたにとって最適なものを選んで下さい」って言ったって、まあ無理だと。
―はい。
だから、「相談する側」が抱える問題も複雑化していって、一方で「相談を受ける側」が持っている制度も複雑化していっている。そうすると、むしろいま、人と制度の距離は離れていっているんですよね。
付き添う人とかサポートする人というのは、これまで、「高齢者や障害者、子ども」に向けては存在していたけど、大の大人については、「一人でやっていけばいいんだ」と。「できるはずなんだ」と、放っておかれていました。
だけど、いまや、若者とか、高齢者、中高年、こうした人たちで、ホームレス状態までいかなくても、抱えるトラブルが複雑になっている人には、「船」になり「橋」になってくれる人が必要なんです。で、そういう“付き添う人たち”が、その仕事を一生の仕事としてやっていけるようにする。職業的に確立していく。例えば、20代の人が「俺は40年この仕事でやるんだ」というような。制度は日々動いていきますから、そういうのを学びながらやっていくと。(これは)相当なプロフェッショナルなはずなんですね。分野がとにかく多岐にわたっている。だから福祉の専門家だけじゃだめなんです。ハローワークだけでもだめだから。そういうところをうまく繋いでいける、そういう人をもっと育成するプロジェクトを(作らないと)。そしてこれ自体が雇用創出につながるんです。

―そうですよね。
人材育成プロジェクトの、今度の政府の「新成長戦略」ですか。あそこになんとか押し込もうとしています。最終的には、仙谷(国家戦略相)さんが「やる」という風に飲むように頑張っています。
(続く)
湯浅誠 1969年生まれ
NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長、反貧困ネットワーク事務局長他。90年代より野宿者(ホームレス)支援に携わる。「ネットカフェ難民」問題を数年前から指摘し火付け役となるほか、貧困者を食い物にする「貧困ビジネス」を告発するなど、現代日本の貧困問題を現場から訴えつづける。
著書に『反貧困』(岩波新書、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞大賞、第8回大仏次郎論壇賞)、『貧困襲来』(山吹書店)、『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(同文館出版)、『正社員が没落する』(堤未果氏と共著、角川新書、2009年)、『派遣村』(共著、岩波書店・毎日新聞社)、『どんとこい!貧困』(理論社「よりみちパン!セ」シリーズ)、『岩盤を穿つ』(文藝春秋社)など。
2008~09年年末年始の「年越し派遣村」では村長を務める。2009年10月内閣府参与に就任。雇用対策本部内に設置された貧困・困窮者支援チーム(主査:山井和則厚生労働大臣政務官)の事務局長を務める。2010年3月内閣府参与辞任。
2010年5月10日、内閣府参与に再び就任。
貧困・困窮者支援チームを改組したセーフティ・ネットワーク実現チーム(主査:細川律夫厚生労働副大臣)で事務局長代理を務める。
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