それがたとえ1ミリでもⅢ
2010/05/14
~”霞ヶ関村”の感覚~
あとは、その問題と絡んでくるんですけれども、「低所得者向けの住宅政策」というのが、通年の課題のもう一つの柱です。これは結局、発想も一緒ですね。今、高齢者に向けては、「ケアつき住宅」とか「介護付き住宅」「公営」「高専賃」とか色んな住宅が出来てますよね。しかし、これが一般の単身の低所得者にはない。
―はい。
公営住宅だって、単身入居はいまだに、目的“外”入居ですから。目的“外”なんですよね。


都市部の公営住宅とかは、今の平均倍率が8倍ですからね。もう(入居することは)無理なんです。日本は、住宅というのは経済を活性化させる資本だと言い続けてきました。典型的な例として、中間所得層が、最初は実家にいるわけですけど、会社に入ったら、会社の手厚い住宅手当を受ける。あるいは会社の寮に入ったり家賃が安い社宅を提供される。そして、会社に属していることで銀行からローンを組んで、普通の家を持つと。まさに“会社に抱えられた正規雇用”を前提に、かつ住宅というのが“社会保障”ではなくて“企業の福利厚生”として位置づけられていたから、みんなそれなりにやってこれた。だけどこのシステムが今壊れちゃっているわけだから、どんどんどんどん、最初の入り口にすら辿り着けない人が増えています。
なので、今までそういう「中間所得者層・中流層向け」だった住宅政策を、「低所得者向け」に重点を移して、公営住宅建てるのが現実的でないなら、家賃補助制度を作って、そこに入居するサポートも含めて「パーソナルサービス」を行っていく。
だから、まず住宅と、そういうのをひっくるめてうまくつないでいくものとして「パーソナルサービス」、この二本を立てるべきだという風に言っています。それは政府の今までの枠組みではかなり目新しいことなんですけど、私たちは、考えてみるとそれをずっとやってきたわけなんですよ。

―NPO法人「もやい」での取り組みですね。
そうです。「もやい」に相談に来た人に、必要なときには生活保護を、アパート入る時には保証人に、亡くなっちゃたらお墓と。その人一人に、出会ってからずっと基本的に伴走する。
多重債務抱えていたら法律家、メンタルヘルスだったら信頼できるクリニックと、という風にやってきて、それをちゃんとシステムとして、国のシステムとして、縦割りをといていく形で作っていく必要があると思っています。
それは、政治家を「うん」と言わせるまではいくかもしれないけれども、省庁の縦割りに喧嘩売るような話で、凄く嫌われます。でも、そういうことをしなければ、来年も再来年も、今年や去年と同じことを続けるはめになりますよと、私は言っています。
―NHKスペシャル※(1)を拝見しましたが、各役所の人に悪気があるわけではないんですよね。別に怠ける気があるわけでもないし。
悪気があるわけじゃないです。要するに何をもって「ちゃんとしていると考えるか」ってことなんですよ。
―ええ。
自分のテリトリーをはみ出さずに、その枠内で工夫しながら実績を残す、これが「ちゃんとしている」ってことなんですよ、彼らにとっては。無責任に他のところに顔や口を出して関係をこじらすとか、そういうようなことは「ちゃんとしていない」ことなんですよ。
厚生労働省が「失業者支援で文部科学省の施設を貸せ」なんてありえないって彼らは言うんです。「同じ国の施設で空いてるんだから使えばいいじゃないか」っていうのが我々の発想ですけど。やっぱり凄く閉鎖的なところなので、感覚が「村」的なんですよ。「村」的な感覚って、政治の世界も似たようなところがありますけど、要するにここでおかしなことをやると、あとあと関係が悪くなる。どこかで仕返しされるという風に考える。

―前例があるとかないとか?
前例があるないじゃなくて、ここで他省庁・他の課に迷惑かけると、あとで相手のいうことを飲まなきゃならないとか、仕返しされるとか嫌がらせされるとか。それが怖いという風に考える。私、都会の人間ですからあんまりそういうこと考えないんですけど、例えば地方でね、運動起こそうって言う人はすごく慎重なんですよ。
―そうですよね。
考え抜いてやりますよね。それは下手をすると、三代あとまで、「お前のところの親父は、爺ちゃんは」って言われる。だから引っ越せば済むみたいな感覚になれないっていうか、実際引っ越せない。で、あの感覚ですよね。閉鎖的だから。
―その感覚があって都会に出てくる人もいるんですよね。
そうそうそう。まあ官僚の中に踏みとどまりながらもなんとかしようと思ってる人も、結構いますけどね。でも大半の人は、あの仕組みの中で育っていけば・・・。
―責任とりたくないし。
あとは上司から諭されるんだと思います。若いうちから。だって、そんなこと、私も(中に)入るまで知らなかったけど、普通はもうちょっと「天下国家のために働きたい」みたいな感覚で官僚になるわけじゃないですか。で、「今のあり方はおかしい」みたいな感じでね。だけど入った途端に「お前はこの部署だから余計なことをやるな」みたいなこと言われて、ちょっとやると、まあ怒られる訳です。「どうしてだかわかるか」みたいなこと諭されたりして。そうやって3年5年10年やっていけば、そりゃあまあ“踏み外さない人”になっていきますよね。

(続く)
注1) NHKスペシャル(2月28日放送)「権力の懐に飛び込んだ男 100日の記録」
湯浅さんが内閣府参与になってからの100日間に密着したドキュメンタリー
湯浅誠 1969年生まれ
NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長、反貧困ネットワーク事務局長他。90年代より野宿者(ホームレス)支援に携わる。「ネットカフェ難民」問題を数年前から指摘し火付け役となるほか、貧困者を食い物にする「貧困ビジネス」を告発するなど、現代日本の貧困問題を現場から訴えつづける。
著書に『反貧困』(岩波新書、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞大賞、第8回大仏次郎論壇賞)、『貧困襲来』(山吹書店)、『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(同文館出版)、『正社員が没落する』(堤未果氏と共著、角川新書、2009年)、『派遣村』(共著、岩波書店・毎日新聞社)、『どんとこい!貧困』(理論社「よりみちパン!セ」シリーズ)、『岩盤を穿つ』(文藝春秋社)など。
2008~09年年末年始の「年越し派遣村」では村長を務める。2009年10月内閣府参与に就任。雇用対策本部内に設置された貧困・困窮者支援チーム(主査:山井和則厚生労働大臣政務官)の事務局長を務める。2010年3月内閣府参与辞任。
2010年5月10日、内閣府参与に再び就任。
貧困・困窮者支援チームを改組したセーフティ・ネットワーク実現チーム(主査:細川律夫厚生労働副大臣)で事務局長代理を務める。
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