私の多事争論


それがたとえ1ミリでもⅣ

2010/05/15

~それがたとえ1ミリでも~



―その方が出世というか、彼らのいう“ちゃんとしたコース”をいけるんでしょうね。

そんな感じがしました。外から非常に見えにくいから、“霞が関村”って感じの閉鎖的空間になっていってるでしょ。よく言われるのは、みんな人事交流で色々な場所に出向しているけど、全部本籍地はわかってる、みんなにとってその人の本籍地はわかっているっていう訳です。だから厚労出身の人が、今、内閣府にいようがどこにいようが、こいつは最後厚労省に戻る奴なんだという風に見られるわけですよ。それはIターンとかで、都会でリタイアした人が田舎に行って5年経とうが10年経とうが「あいつはよそもんだ」と「地元の人間じゃない」と言われるのと同じ。なかなか地域で付き合いながらも、そこのところでは信用してくれないのと同じ感じを受けました。
昨日、たまたま、今、内閣府にいて旧労働省出身の人と話したんですけど、まあ、わーっとした(雑談の)中で、結局、今、労働省(厚労省)で誰を一番信頼してるんですかって話したんですけど「そんなことは言えない!」っていうんですよ。「私は厚労省に帰る身なんだから、今内閣府にいるからっていって、そんな軽々しく言えるわけないじゃないですか」みたいな話になるわけですよ。そういう感覚がすごく強いということを知りました。縦割りっていう言葉自体は知っていたけど、なんか実感としては全然わかってなかったなっていうのが今回わかりました。

―先ほどの通年課題を具体化していくためには、そういうのを崩さないとだめなんでしょうか。

崩せないでしょうね(笑)。




―では、“崩せない”っていう中でどうするか、方法を考えてらっしゃる?

今イメージ膨らましているうち、出来上がるものは2割とか3割だったりするわけですよ。いろんな壁にぶつかって骨抜きになっていってね。だけど“2割進んだ”という面を見ないと、結局は手をつけられないという結果にしかならない。なるべくトップスピードを高くして、これでやるんだって打ち出して、やって、でも結果はそういう風に崩れていくから、そのプロセスの中で少しずつ揺れが大きくなれば、風通しがよくなったり、雰囲気が変わったりするっていう、そういうのを積み重ねていくしかないんじゃないですかね。

―湯浅さんたちを見ていて凄いなと思うのが、途方もない状況に対して、絶対無理だってあきらめないで、粛々とっていうと変な言い方なんですけど、ちょっとずつでもやっていらっしゃるところです。

最初からそんなに大きく期待してないから(笑)。



―いやだけど「なんかああもう無理」って止まらないで、ちょっとずつでも前に進もうとされる、しかもそれを続けているというのが、凄いなと思います。

私は、いわゆる粘り強い性格ではないと思うんですけど。

―そうなんですか。

多分「無視されてた期間」がずっと長いから、ちょっとの変化でも大きく見えるんですね。まあホームレス問題ですからね。そりゃあもう、ずーっと、端っこの端っこの端っこ位の課題だったでしょ。私もそういうつもりでやっていたし、気付いたら、思ったよりちょっとは、ど真ん中には来てないけど、「社会の状況がこちらに寄ってきちゃった」みたいなところがあるわけです。



動かしたのが1ミリでも、1メーター先では、大きく変わってくるわけじゃないですか。ここでまず、その一歩をどう踏み出すかで、一ミリずらせられれば先は大分変わってくるし、その次もまた1ミリこっち側にずらせられれば、100メーター先では随分変わりますよね。
1ミリでもずらしていけると、歩いているのは巨人かもしれないけど、その向かっていく方向をだいぶ変えられるっていう感じがあるわけです。あんまり自分たちが力を持っているって感覚はないんだけど、ま、なんかやっていると「1ミリくらい変えられること」ってあるんですよね。そういうのが結局「成果」なんだろうと。だから派遣村みたいに、世の中がわーっとなっちゃって、5ミリくらい変わっちゃったところっていうのは、むしろこっちの方が動揺するっていうか。「なんかえらい騒ぎになっちゃった」といった感覚はありますよね。
(続く)




湯浅誠 1969年生まれ

NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長、反貧困ネットワーク事務局長他。90年代より野宿者(ホームレス)支援に携わる。「ネットカフェ難民」問題を数年前から指摘し火付け役となるほか、貧困者を食い物にする「貧困ビジネス」を告発するなど、現代日本の貧困問題を現場から訴えつづける。

著書に『反貧困』(岩波新書、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞大賞、第8回大仏次郎論壇賞)、『貧困襲来』(山吹書店)、『本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(同文館出版)、『正社員が没落する』(堤未果氏と共著、角川新書、2009年)、『派遣村』(共著、岩波書店・毎日新聞社)、『どんとこい!貧困』(理論社「よりみちパン!セ」シリーズ)、『岩盤を穿つ』(文藝春秋社)など。

2008~09年年末年始の「年越し派遣村」では村長を務める。2009年10月内閣府参与に就任。雇用対策本部内に設置された貧困・困窮者支援チーム(主査:山井和則厚生労働大臣政務官)の事務局長を務める。2010年3月内閣府参与辞任。
2010年5月10日、内閣府参与に再び就任。
貧困・困窮者支援チームを改組したセーフティ・ネットワーク実現チーム(主査:細川律夫厚生労働副大臣)で事務局長代理を務める。



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