私の多事争論


平川克美 3・11後の日本へⅡ

2011/04/29

~「小商い」と「とりあえず」~



そうではない企業というのは「儲けない企業」のことです。「儲けなくてただ継続していくことに重要な価値を見出す」という企業。それは、大きい企業ではありえなくて、株主の顔が見える「小商い」でしか実現できない。だから「路地裏の小商い」をやりましょうと、いま、「小商いの勧め」という本を書いています。そういう、小商いの勧めというのは、何も規模が小さいということではなくて、「大きくなること」「より成長すること」がいいという価値観を捨てて、もうちょっと、自分たちがそのなかでより充実して楽しくやっていこうと、そして何よりも継続していこうというものです。
日本には、世界には珍しい「1000年以上続いている会社」が何社もあるんですよ。で、それほとんど全部小商いなんです。宮大工の集団であったり、伝統工芸品を製造している会社とか。百年以上継続している企業は、10万社以上あるといわれている。こんな国はないんです。
起業家とか、大学発のベンチャーだとか、産官学共同とか、それ、僕ずっとやってきたから、それがいかにインチキかわかります(笑)。その先頭でやってきた反省がある(笑)。



最初から懐疑的だったんだけど「とりあえずやってみるか」と行きがかり上やって・・・。で、何が悪いかって一目でわかります。そういうところって、来ている人の質が悪いんです。「日本をよくする」とか言っているんですが、「じゃ、お前身の回りで何やってるの」って。ほとんど金銭一元的な価値観しか持っていない人が多い。かれらは日本の成長物語に寄与していると思っているかもしれないが、利益の得られない身の回りの小さなことに関しては冷淡だったりする。

大事なのは、「大きな問題」じゃなくて実は身の周りの「小さな問題」なんです。例えば、僕はいまそれを始めているんですが、「介護」です。私の父親は85歳で僕は60歳なんですが、85歳年齢に対し60歳年齢は4倍いる。僕の父親は今入院しているんだけど、救急車の中でたらいまわしにされてなかなか入れなかったんです。
だから、人数が4倍である僕らの世代になった時、もう「病院には入れない」と思わないといけない。4倍いれば、とてもじゃないけど収容できないでしょう。ではそれに代わりうる何かができるのかと。多分、できていくんだろうと思うんですが、とりあえずそこにいくまでの「つなぎ」をやらなきゃいけない。その「つなぎをとりあえずやりましょう」というのが個人にできることなんです。



その時にお金があるからといって“どこかの施設に預けて自分は仕事に行きます”では何も変わらない。できる限りは自分で責任をもってやる。どうしても駄目になっても、預けっぱなしにしない。そこでアイデアを変えてやってみるということですよね。あと、隣の人間が会社潰れたりでいろいろあった時は、お互いに助け合うとか。とりあえず次のステップに行くまでは、つなぎでやらなきゃいけないでしょう?これが生きていくということだから。
とりあえずできることをやりましょうよと。それをやっていくうちに自然と形ができてくる。「大きな問題」なんていいです。とりあえず、自分が身近できることをやる。

―仕組みは、物事が進んでいくうちに追いついてくるもの、ですか?

いま、どういう仕組みを作るとかいろいろやっているけど、何だっていいんですよ。仕組みなんて(笑)。問題は「運用」です。
運用するということはまさに「つなぎ」のところをどういうふうにやるかということです。弾力的な運用ができればいいわけで、運用ができなければどんな仕組みを作ろうが長持ちしないんです。そのことに気づいていないのかなあ。政治家だって総理大臣だって誰がやろうとかまわない。だって似たり寄ったりだもん。



仕組みも、年金でも何でも、なんだっていいんです。官僚が作ればいい。そういう勉強しているんだから。でも、官僚が作ったら、それをどうやって運用するのかといった時に規則優先になっちゃって、全然運用できていないのが問題なんですよね。

具体的な例で言うと、うちの父親は今度、口から食料を入れられなくなったので、胃に穴をあけてそこから入れるということになりました。僕が「ヘルパーさんが昼と夜と来てくれるから大丈夫」と医師たちに言ったら、ヘルパーは法律でだめなんだそうです。家族しかできないんだそうです。でも家族よりもヘルパーの方よほど知見があるわけなので、「じゃあいいよ、法律破ってヘルパーさんにやってもらうから」と言ったら、医師たちは猛反対するんです。「なんていうこというんですか、平川さん」て。(笑)。



実際に生きるか死ぬかの人間がいた時、法律なんてどうでもいい。悪いことをしようとするわけではなく自分の肉親のためにやろうとしているんだから、やれる人がやればいいと思う。つまりそういう運用ができるかが大事で、痰の吸引もヘルパーがやれるようにすべきでしょう。そうすれば今の多くの問題が、つまり病院のベッドが足りないという問題が、在宅介護に切り替わる。本当は在宅がいいにきまっている。それをできなくする原因をつくっておきながら「病院がなくて大変だ」とか言っている。でも、「とりあえずやれること」というものがあるんです。
(続きます)



平川克美(ひらかわ・かつみ)
1950年東京生まれ、1975年、早稲田大学理工学部機械工学科卒業。
渋谷道玄坂に翻訳を主業務とするアーバン・トランスレーションを設立、代表取締役となる。99年、シリコンバレーのBusiness Cafe,Incの設立に参加、現在、株式会社リナックスカフェ代表取締役。
2011年より、立教大学ビジネスデザイン研究科(MBA)特任教授。
著書に「反戦略的ビジネスのすすめ」(洋泉社)、「株式会社という病」(NTT出版)、「経済成長という病」(講談社現代新書)、「移行期的混乱」(筑摩書房)。
内田樹との共著に「東京ファイティングキッズ」(柏書房)、「東京ファイティングキッズ・リターン」(バジリコ)などがある。



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