私の多事争論


みうらじゅんさんからの贈り物Ⅰ

2010/03/02

~ワンアイテム~



―最近、「閉塞感」についてよく話すんです。だから、“楽しそうに生きている大人”に会えば、何か打開策が見つかるのではと思って伺いました

全然楽しくないですよ。言っときますけど(笑)。努めて楽しそうにはしていますから、みんな、まんまと術中にはまっているだけで。フツー、楽しいわけないじゃないですか。
きっと楽しそうにする努力が足りないだけですよ。みんな。長髪にしたりすればいいじゃないですか。パァーっと。そしたらきっと楽しそうに見えますよ。「この人だめだなあ」って思われることが肝心ですから。きちっとしてると楽しそうに見えない。




―きちっとしてるから・・・

さらに言うと、みんな長髪にしてサングラスにすればいいんですよ。そしたら「楽しそうだな」と確実に言われますから。やっぱ形態ですよ。形態で人はものを見てますから。格好変えればいいだけですよ。モテないことすれば楽しそうに見えるもんですよ。「この人絶対モテてないな」って思われる感じを出せばいいだけだと思います。
みんな、モテるために“平均”してるんでしょ。“平均”しとかないとモテないと思いこんでるけど、大長髪だってたまにはモテる時があるってことを知らないんでしょうね。

―それを知らないから、「社会に閉塞感が充満している」っていう話になっちゃうんですね

そうですね。たぶんそこだと思います。長髪とサングラスじゃないからだと思います(笑)。もう結論ですけど。それで絶対楽しい人に見えるっていうことは保証しますけど、これ言って誰も真似しないっていうところが、もうだめですよ。それはだめですよ。「最近、楽しくないなあ」って思ったら、もう一度言いますけど、髪の毛めっちゃ伸ばしてサングラスかけてれば楽しそうに見えるものですよ。

―女の人はどうすればいいですか

女の人だって、バラをいっつも胸にさしてるとか、ワンポイントですよ。なんかあの人いっつも胸にバラさしてるなって、それ一年間やってたらもう楽しそうに決まってるじゃないですか。そんなの。もうそれで、1(ワン)アイテムでオッケーですよ。最終的には菊人形みたいになってるのがいいですね。菊の花いっぱい刺して「あいつ菊人形かよ」って言われた瞬間、楽しそうじゃないですか。もう。本人は楽しくなくても。

―まず、人から“楽しそうに見える”ようにすることから始めるという・・・

まず何か形として見えない限りそれは無理でしょう。やっぱり。自分がきつい目にあわない限り、「楽しそう」なんて思ってもらえないじゃないですか。普通の格好して普通の考えで皆と同じこと言ってても、突出しないですからね。

―テレビのニュース番組にも、「横並び」だという指摘があります

いま、パーソナリティーなんていう人もつまらないじゃないですか。それこそ筑紫さんとかはふさふさした白髪っていうのがね、特徴なんですよ。藤本義一さんもそうでしょ。まず。

―ふふふ

そこがないじゃないですか。みんな。みんな体のいい格好しているじゃないですか。
なぜこの人はハゲないんだろうとか思わせなければ。昔の軍事評論家の青木さんだって、やっぱぐっときたわけじゃないですか。みんな。ほんで笑ったもんじゃないですか。

―あはははは



みんな、なぜ努力してそれをしないって。「僕にはそのセンスないですから」って言うでしょ、すぐ。言い訳するのは良くないです。“センスがあるない”じゃないんですから。先ほどから言ってますように、1ポイントつけてけばいいだけ。肩のところにいっつもオウムが乗ってるニュースキャスターなんて、絶対面白い人だって思われるに違いありません。ビルマの竪琴以来ですからね。

―みうらさんは、若かりし頃、筑紫さんにインタビューされたいと思っていたと聞きましたが、それはどうしてですか?

(朝日ジャーナルの)「新人類」(注1)で取り上げられたかったんですね。それは、時代に乗りたかったから。騙して。ぼく新人類じゃなかったけど。登竜門でやっぱ出たかったですよね。
まだ20代だったし若かったです。ちゃんとテクノカットにして、それなりに時代に乗ってるような雰囲気にしてたつもりなのに、誰も目をつけてくれなかったですね。

―おかしいですね。なんでオファーがなかったんでしょうか?

頑張ってたんですけどね。でも頑張らなくなってからの方が、こうやって陽気な人だと思われるようになったけど、あの頃はみんなに合わせようと頑張ってましたから。

―ところで、最近若い人が「テレビでニュースは全く見ない」と言いますね

それはニュースキャスターの髪型がおかしくないからですよ。NHKでどんどん白髪になっていく人いるでしょ。若い人。どこまでいくんだろうと思ってそりゃ見ますよ。ニュースは耳に入ってこないけど。その方の白髪っぷりがどこまでいくのかは気になりますね。何があったのかと思うじゃないですか。
ニュースのネタの面白さに頼ってるからだめなんですよ。自分が面白いやつじゃないと。
筑紫さんは、本当はズラかなあと思うじゃないですか。当然。お年だったし。あんだけ後頭部までふさふさしないだろうって。疑問がありましたね。ずっと。「あんなに盛り上がってないだろう、フツー」って。そこが気になりますよね。

―「筑紫哲也NEWS23」はご覧になっていましたか?

見てましたよ。筑紫さんの髪型をね。ニュースキャスターを見るためにニュース見てるんですから。みんなそうですよ。だからナンシー関さんも人の顔の判子を作ってたでしょ。面白いから。今、ナンシーさん生きてても彫る顔少なくなったってことですよ。




注1)「新人類の旗手たち」 筑紫哲也さんが、雑誌「朝日ジャーナル」で連載していた、若者との対談を行う企画




みうらじゅん(イラストレーターなど)

1958年京都市出身。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、イラストレーター、作家、ミュージシャンなど幅広い分野で活動。1997年造語「マイブーム」が流行語大賞受賞語になる。2004年、日本映画批評家大賞功労賞受賞。興福寺「阿修羅ファン倶楽部」の会長。著書に「見仏記」シリーズ(いとうせいこう氏共著)、「アイデン&ティティ」(2003年映画化)、「色即ぜねれいしょん」(2009年映画化)、「ゆるキャラ大図鑑」、「アウトドア般若心経」、「さよなら私」、「自分なくしの旅」など。音楽、映像作品も多数ある。
http://www.miurajun.net/



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