私の多事争論


新宿の小さなお店ベルクからⅡ

2010/10/18

~立ち退きを通告され・・・~



―2年前、ベルクは、(駅ビルオーナーである)ルミネから「立ち退き」を言われたと思いますが、今はどんな状態ですか?



15000名以上の署名が集まった営業継続の請願書を受け、2年近く前に「遺憾ながら延期します」と言われたのですが、それがいつまでの延期なのか、このままうやむやになるのか、わからないんですけど。
ただ、契約の期限は2年毎にやってきて、次が来年の3月なんですが、何ごともなければ契約は自動更新されます。ただ、家主であるルミネさんがそれを望まなければ、その半年前までに、つまり今月末までにその旨をうちに伝える法的義務があるんですね。
(※インタビューのあとの10月頭に、ベルクにルミネから『来年3月末での契約解除』という内容の文書が届いた)

―ルミネからは、どういう理由で「立ち退いてくれ」と言われたんですか

口頭でしか聞けていないのですが・・・。理由は「ルミネはファッションビルだから」というものだけです。どういう基準ですかと聞いたら、うちがだめだと言ったらだめです。それが基準ですと言われました。

でもベルクをやっている考え方と同じですけど、「色んな人が来て、色んな使われ方があって、いろんな年代の、いろんなお国柄の人が来て楽しめる」という駅ビルのほうが新宿の駅ビルにはふさわしいと思うんですが、それを「ファッションビル」という一色だけにしようというのは残念に思いますね。



―駅ビルをめぐる状況、新宿の街の変化ともリンクしているところはありますか?

新宿という街で20年ちょっと写真を撮り続けています。街はどんどん変わってはいくものではありますが、最近その変わり方が急激すぎるなあと感じています。特に、西新宿とか北新宿などの再開発を見ていくと、まずいったん全部一掃して、そこから何か上に乗っけていくという街づくりですよね。いったん全部殺菌している感覚。その上に、自分たちにとっていいと思う菌をのせていくという感じですよね。
それは駅ビルの中でも同じ構造です。駅ビルの中って見えないから外からはわからないですけれど、全く同じことですよね。そういう再開発と。

新宿の街では、ホームレスの方のための炊き出しの場所も、通りから奥まった「人から見えにくい」場所に移っています。駅構内や公園での寝起きも原則禁止となりましたね。その話も共通していると思いません?それは「排除」ですよね。見えなくさせるという。みんな抗菌、殺菌、人も街もそうなっているように見えてきてしまう。

―「ベルク」の「立ち退き問題」は、単なる「個人店の生き残り」という話ではない気がしてきますね
世の中全体の状況とリンクしているのか・・・。


そうですね・・・。
例えばけさ、取引先の大手の営業マンさんに説教したんですけど(笑)、とにかく自分というものがないんですよね。自分がどうしたいのか、「個」がない。
ベルクでは上からはあまり言わないんですよ。こうしなさいとか命令はしないですね。

―スタッフの方それぞれのアイデアを、どうやって引き出していっているんですか

例えば商品開発だったら、誰かが何かを作ったりしてそれが美味しければ、次はこういうの食べたいなとかつぶやくんですよ。そしたらそれをまた作ってきてくれたりして広がっていくんですよ。



―スタッフの方たちは、自分の家で研究しているんですね

どんどんやってほしいと思いますね。私からは逆にあれが食べたいとかリクエストばっかり(笑)。

(井野さん)
アルバイトスタッフには、社員の手足になってほしいですが、それだけでは限界がありますし、スタッフ自身、頭になるつもりじゃないといつまでたっても成長できません。仕事は与えられるだけでなく、自分で発見、創造しなければならないということです。それにはある程度時間もかかります。上司もそれを待つ、見守るという姿勢が必要になります。

どこで手をさしのべるか、というのが難しいですね。手を出したら、かえってダメなときもありますから。ぐっと辛抱しなきゃならない。




「個人の力を信じて任せる」って忍耐力と覚悟と責任感が必要ですよね。でもそのほうが皆が成長するんですよ。それを見られるのが楽しいですよね。1ヶ月や2ヶ月でなんとかしないといけないとかだったら大変かもしれないですけど。人によっては10年かけて育てたりしているので。
でもそうすると、想像以上のリターンがあるんですよ。

ベルクというお店も自分一人ではできないお店ですし、これだけの人が集まって、いろんな能力が集まってできているお店だと思いますので、化学反応じゃないけど、思いもかけないことがたくさんあります。

職人さんが、例えば新しいパンを作ったときに、職人さんと直接話して試作品まで持っていくのは私の仕事なんですが、その上で、アルバイトのスタッフも含め、皆で一緒に考えることもあります。
何か自分たちで関われるところを残しておいたほうが面白いですよね。全部上で決めちゃうと与えられたものをやるだけになっちゃうんで。

(井野)
お店の始め方が特殊だったことが関係しているかも。元々飲食業をやりたいと思ってお店を始めたわけではなくて、新宿のこの場所を占拠する、という感覚で始めました。ここで何かをやりたいという・・・。壁と利用した作品展も、このお店でやりたかったことなんですよ。




(迫川)
まるで文化祭小屋(笑)。ベルクは、新宿の街そのもののような場所なんです。





迫川尚子(さこかわ なおこ)
ベルク副店長。写真家。
種子島生まれ。女子美術短期大学服飾デザイン科、現代写真研究所卒業。
テキスタイルデザイン、絵本美術出版の編集を経て、
1990年から「BEER&CAFE BERG(ベルク)」の共同経営に参加。
商品開発や人事を担当。利き酒師、調理師、アートナビゲーターの資格を持つ。
日本外国特派員協会会員。
1年364日ベルクに勤務する一方で、
職場を脱出しては、日々、新宿、東京を撮り歩いている。
写真集に『日計り』(新宿書房)、著書に「食の職」(ブルース・インターアクションズ)がある。
森山大道いわく「新宿のヴァージニア・ウルフ」。



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