筑紫・鳥越 往復レター

2008.9.26 鳥越俊太郎→筑紫哲也

筑紫 哲也 様

2回目のメール拝見しました。メールの文章を見ながら、ああ筑紫さんお元気なんだなあ・・・と安堵しております。

さて福田前総理大臣の辞任劇についての評価の問題ですが、確かに2代続いた政権投出しはメディアが一斉に指摘したように「無責任」であることには私も異論はありません。それから、筑紫さんが指摘されるように福田氏の最大の”罪状”は「日本国内閣総理大臣」という地位を貶めたことにあるのも異論はありません。

ただ、多くの日本人には、そして私も総理大臣といっても特に人格者がなる訳ではなくて、まあ大したことはないわなあ・・・という気持ちを抱いてしまっているんではないでしょうか。従って今回の福田さんの突然の辞任についても案外冷静に受け止めていたように思います。そうですね、小泉さんの頃から総理大臣がメディアに頻繁に登場することの副作用として、神の領域から我ら庶民の領域に引きずり降ろされてしまっていたんではないでしょうか?
日本の総理大臣に、もはや日本人のかなりの人達は「責任」など求めても詮無いものだと思っていたように思います。

ただ、福田さんはそれなりに真面目に自分の歴史的な役割を考えたんだと思うんですね。このまま解散、総選挙になれば世論調査の支持率から言って恐らく民主党に敗北することを分かっていたはずです。自民党の歴史の中で民主党に政権を奪われた党首にならないための道はあるのか。彼なりに相当に悩み考えたんでしょう。結論は彼が辞任表明の時に言ったように「ワクワクするよう総裁選挙をやってほしい」、つまり賑やかな総裁選挙を全国レベルでやれば、当然日本のテレビを初めとするメディアがぱくっと食いついて来る。そうすればメディアの露出が多くなれば多い程支持率は上がると計算したんでしょうね。確かに小泉選挙の時にはテレビは無惨に小泉氏に振り回され、利用され尽くされました。結果はご存知の通りで、必ずしも国民の生活実感とは必ずしも沿ってはいませんでした。

2匹目の泥鰌を狙った総裁選挙は空振りでしたね。

メディアもまあ、かなり甘かったんですが、それでもかなり前回の轍を踏まないように気をつけたところもあります。その結果は大して盛り上がらず、恐らく支持率は上がってはいないでしょう。
全国17カ所で街頭演説もやりましたが、5人のスピーチはこれといった対立点もなく国民の心を揺り動かす所迄は行かなかったようです。今日麻生内閣の閣僚が発表されましたが、全く何の意外性もなく平凡な組閣でこれも支持率向上には寄与できないでしょう。
と、すると麻生総理大臣はいつ解散にうってでるんでしょうかねえ?私は別に民主党の支持者という訳でもないんですが、まあ、今回は政権交代をやってみて自民党・公明党の政権とは違うやり方を見てみたいと思いますね。そう言う国民は結構このところ増えているんじゃないでしょうか?

ところで、筑紫さん治療の方はその後如何ですか?

こういう質問は同じ境遇になった私しか出来なと思うのでズバリ聞きますが、がんになってみて自分の死生観に揺るぎはありませんでしたか?たとえば余命6ヶ月と言われても従容として最期の日を迎える自信はありますか?まあ、個人的なものなのでそう他人に語るものではないと思いはしますが、筑紫さんには聞いてみたい思いを抑えられません、すみません!!

私は、今日、先週撮影した右肺のCT写真に写っている陰について主治医と話して来ました。転移のがん細胞なのか、良性の腫瘍なのか、写真だけでは分からないんですよ。形が前回の撮影時よりあまり大きくなっていないので、様子を見ようということになりました。医師とは「陰が5ミリを超えたら切ろう」と合意しています。
がん患者はいつになってもがん患者なんですね。

またお便りします。
お大事に!!!

鳥越 俊太郎