
渡辺 真理
2008/10/31
21時頃から、毎晩、打合せが始まっていた。
”頃”といったのは、OAは秒で刻まれる職場も
OA以外は、そこまで厳密じゃない。
というか、結構ゆるい時も、ある。
報道フロアのニュース23のひと区画で、
その日の担当スタッフ何人かと待っていると、
「はい〜、おつかれさま〜」
と言いながら、筑紫さんが現れて
「いや〜、北玄関の自動ドアが開かなくて(^_^)」
なんて続く。
開かないわけはないので、
打合せに数分遅れた理由を
(多分、直前まで観ていらしたオペラを抜けがたかったとか…)
無理繰り扉のせいにしてる銀髪の教授のようなアンカーを
スタッフは微苦笑しつつ、いつも通り囲んで、
「また開きませんでしたかー」
なんて言いながら、その日の内容に入っていく。
「道が混んでた」でも「信号に毎回引っかかった」でも
「局内で人に会って、すぐに抜けられなかった」でもないところが
奮っていた。
突っ込みようのない小さな嘘は、身を守るように見えて
その場も空気も守らない。
「自動ドアが開かなかったーー」
肩から鞄を下ろして、目の奥で笑いながら席につく筑紫さんを
スタッフは、待っていたゼミの生徒達みたいにスッと囲むのが
いつもの打合せの始まりだった。
元同僚というのは、時に、
つき合っていた人以上に(というと語弊があるけれど)
共有していた空気を換気する存在で、
会社近くや廊下で出くわすと、気持ちの奥で結ばれてた
小さな袋の口が急に開くみたいに一気にその頃に引き戻される。
その時間を共有していたというのは、
かけがえがなく、忘れ難く、いとしいものだ。
私がニュース23に関わった時間は、そんなに長くなくて
他の番組もかけ持っていた職種上、そんなに深くないかもしれない。
ただ、夜の報道フロアに灯っていたあの場所は
自分の中にも確かに息づいて、支えてもらっているので、
郷愁だけでも愛惜ばかりでもなく、
一緒に過ごしていたあの頃の空気を
織り交ぜながら、リレーの末席につかせていただければと思う。
元・一スタッフとして、このページに目を留めてくださる方々が
現在のニュース23を愛顧してくださるよう、心からお願いしつつ。
渡辺 真理