『映像とは何だろうか ―
テレビ制作者の挑戦―』
2009/10/09
![]() | 「映像とは何だろうか -テレビ制作者の挑戦-」 吉田直哉 著 岩波新書 |
見えないもの。例えば、我々(日本人)の心の底にある“美”や“自然”に対する
独特の感情。
それを表現(映像化)した、テレビ番組がある。
日本の美「日本の文様」。1962年に放送された23分間の実験的な番組である。
日本に古くから伝わる”家紋”がある。
我々の身近にある植物や動物それに月や星などを円や線で簡潔に表した、”家紋”。
それらの文様が音楽に合わせて出たり、消えたり、回ったり・・・。
ただ、それだけの番組である。何の説明もない。
ただ、それだけなのに、私の記憶の中に残り続けている。
番組を制作した著者はこの本の中で当時のことを振り返る。
「・・・いつでも問題になるのは、
特ダネ的な素材のときだと気づいていやになった。
よし、何でもないものを撮ろう。
「目立つ素材」は無視しようと決心したのである」
1962年の“何でもないもの”は、およそ50年たった今でも
“何でもないもの”に変わりはないが、
そんな“何でもないもの”の中に大切な何かを感じる。
「日本の文様」の他、多くのドキュメンタリーを残した著者だが、
ある番組をきっかけに彼の仕事はドラマの制作へと移っていく。
「映像とは何だろうか」ということを改めて考えさせられる一冊です。
WEB多事争論編集委員 鈴木エリカ
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn0306/sin_k124.html (岩波新書編集部HP)