京都の出版人
2010/02/19
「出版不況」が叫ばれて久しい中、「すべき仕事をやっている」と勝手に私が敬意を表している出版人二名を紹介させて頂きます。
今や極めて数少ない哲学者・鶴見俊輔さんを巡る一連の書籍を筆頭に、自分の聞きたい人への聞きたいことを、地元京都にこだわりつつ、コンスタントに出版に結び付けていく仕事に本当に頭が下がります。
最新刊は★「ちいさな理想」★(鶴見俊輔)
現在進行中のシリーズに「この人に会いたかった」。第一巻森毅・鶴見俊輔、第二巻室謙二、第三巻高橋悠治、第四巻那須耕介(未)、第五巻中川裕(未)。まさに「ここれでもか」というラインナップ。また大牧冨士夫さんの<徳山ダムとぼく>三部作も、懐かしくて切なくて希望を持たせてくれます。なお、メジャーな書評にも取り上げられましたが「自由について」(丸山真男)は貴重な記録。
年二回発行の同人誌★「Becoming」★を出しておられます。同人代表は「生の欲動」(みすず書房)などで知られる社会学者・作田啓一さん。「人間学」を巡り、様々な老若男女・研究者・作家が実際の事件や文学・映画などを取り上げて考察する毎号100ページ程の冊子ですが、実に厳選されていて、沈思黙考させられます。最新号は去年の第24号。この同人誌は是非御自分で探して、一度手にとって見てください。ここでは作田氏が「創刊にあたって」書かれておられる宣言のみ記しておきます。作田氏は、「人間というこの不可解な生きものへの関心は、研究者のあいだだけではなく一般の人々の中でもしだいに強まってきているように思われる」「人間学的知への要望は強まってはいるけれども、その要望に応える制度がおくれているのである」として、人間を「生成(becoming)」の立場に立って考えようと記しています。そしてこうした同人誌を巡って「趣旨はわからないでもないが、世の通念から離れ、かつ堅苦しいものを公にしたところで、世の人々に何ら益するところはないではないか」という“想定される批判”に対し、こう書いておられます。「確かにその通りである。世の人々が想像的なものを現実的なもの、現実的なものを想像的なものと思っている限り、この小冊子は彼らにとって何の役にも立たないだろう。しかし中には、自分たちが逆立ちをしているのではないかと思い始める人々が出てこないとも限らない。そうだとすれば、この小子冊子は世の中とつながることになるのである」。
期せずしてお二方とも京都在住ですが、東京の(多くが不況という名の下に真っ当な部門を廃止させている)大出版社に比べ、なんとまともな仕事ぶりか。「地方」のシャッター街から東京に、物理的に人間が集う中、「トーキョー」の空洞化は顕著です。今、テレビ業界しかり、映画・音楽にしろ「原産地東京以外」が秀逸な昨今、「東京」はもはや本当の意味で「東・京都」。(WEB多事争論 天野環)