変えてはいけないもの

金平茂紀(かねひら・しげのり)

1953年北海道旭川市生まれ。1977年にTBS入社。以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、「筑紫哲也NEWS23」のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を3年間歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。アメリカ総局長・兼・コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。2010年10月からは「報道特集」キャスターを務める。著書に「世紀末モスクワを行く」「ロシアより愛をこめて」「二十三時的」「ホワイトハウスより徒歩5分」「テレビニュースは終わらない」「報道局長業務外日誌」「NY発 それでもオバマは歴史を変える」など多数。

#19 「変えてはいけないもの」を再発見する

2012/05/27


取材で14年ぶりに再会した宮良芳さん(91)

今年の5月15日は沖縄の本土復帰40周年にあたっていた。この大きな節目にあたって、沖縄の現状を考えてみることは意味のあることだと思う。長年テレビ報道の仕事をしてきた身としては、同じ仕事をしているマスメディアの仲間たちとも多かれ少なかれ、そのような思いを共有できているはずだと思っていた。ところが現実はかなり異なっているのだった。そのことについては自分のなかで理由を熟考し、そして自分なりの努力を尽くすことによってしか何も解決できないのだと思う。一方で、独善主義のチンケな罠にはよくよく気をつけなければならない。ここではそれ以上のことを記さない。要するに、現在のテレビというメディアにおいては、(そうだよ、<3・11>を経験した後であるにもかかわらず、イナーシア=慣性・惰性は渋とく生き残っていて)、沖縄のことよりスカイツリーが大事だし、沖縄のことより金環食の方がもちろん大事だし、沖縄のことよりもAKB48総選挙の方が大事なのだ。そんなことはわかっているさあ。だからこそ、僕らは沖縄をめぐる問題にこだわってきたつもりだ。多数派に依拠しないこと。多数派の前に<私>を滅却しないこと。多数派におもねらないこと。そんななかでは、目前の醜悪な企画群よりも過去の取り組みに自然と足が向かうのは必然と言うものだ。NHKのETV特集が、アーカイブでみる沖縄復帰40年という趣旨の番組を制作していた(5月13日放送)。期せずして僕自身も、沖縄問題に関する過去からの取り組みをどう継いでいくかに関心が移っていた。今から14年前の1998年3月4日の「筑紫哲也NEWS23」で放送した『沖縄の基地なんか知らないよ~東京・渋谷にて』という自分がつくった特集の「その後」をつくろうと思ったのだ。5月12日に放送した後、CSニュースバードで拡大版を放送した時に1998年のオンエア同録をたまたまみた。ショックを受けた。当時の番組の沖縄特集に直結して、筑紫さんの「多事争論」が放映されていた。その内容を次に記録しておく。
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『三無』(1998年3月4日放送)
これだけ長いこと番組をやっておりますと、番組に対するいろんな批判があるのは当然でありますが、なかで、私が腹に据えかねるのは、私たちの番組が沖縄問題を取り上げすぎるという批判であります。十分に伝えていないからこそ、今ご覧になった街頭の光景があるわけです。十分に伝えていない最たるものは、沖縄の問題が沖縄だけの問題ではなくて、私たちの国、社会、私たちみんなの生き方、あり方を問うているという点であります。
誰かを踏みつけにして、自分たちの都合のために、それを見て見ぬふりをしている国が、ろくな国になるはずがない。30年のあいだに基地の状況というのは沖縄ではほとんど変わっておりませんが、深まったのは、この問題に対する「無知」、そして知識があってもそのことに関心をもとうとしない「無関心」、そしてそういう状況に対して想像力が働かない「無感動」。この「3つの無」というのは、実は沖縄問題に限らず、私たちの国の大きな問題すべてについて、最近目立つ現象ではないかと思われます。そういう意味でも、この問題は、沖縄だけの問題ではない。そして、そうなっている責任の一端が、目先のこと、派手さに目を奪われて、ものごとを伝えている私たちマスメディアにもあるということは、言うまでもありません。
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 「変えてはいけないもの」を再発見したので、ほんとうに久しぶりにこの欄に書くことにした次第。

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