新・明日への伝言
この国のガン
K.H(三期生)
「この国のガン」とは何であろうか。私の場合、これはそれぞれの人の中にある煩悩のことである。では煩悩とは何であろうか。それは生きる根源ともなり、苦しみの元凶ともなる願望のことである。では何故それぞれ二つの面を願望は持っているのであろうか。それは私たちの中に仏性と地獄性の両方が備わっているからである。では何故その二面性があるのであろうか。それは、光と闇がある様に片一方だけでは存在し得ず、二律背反の状態で存在するものだからである。しかし、私達はその片一方にだけ捉われてはいけない。両方を見極め、より善い方向を出す様にしなければならない。
では善い方向とはどちらであろうか。それはバランス、調和がとれた状態の方向である。片一方だけではなく、その両方を見極めた上で状況を見極め、その片一方の調和をとる様にしなければならない。その調和がとれていない時、無限に増殖する所の、「願望」がでてくるのである。それが、ガン細胞である。何故、遺伝子に発ガン因子が組み込まれているかを考えて見れば、それは一目瞭然ではないか。根源的に生きる為に必要な願望が、無限の苦しみを与える元凶とも成り得る、これは、なければ生きられない遺伝子が突如としてがん因子に変わってしまう、のと同じことである。
では我々はどうすればがん因子を発動させず、善い遺伝子のままで生き続けることができるのだろうか。私はこれに、仏教の説く所の八正道が有効であると答えよう。八正道は八つの正しい道のことで、それこそが苦しみを滅し尽くす究極の道だと釈尊は説かれた。苦しみは人様々だが、苦しみの原因をそれぞれが見極めなければならない点は人類共通である。これに到る為には四諦が必要である。この苦の中には、「病」が含まれる。(生老病死、四苦八苦の一つ。)この病を打ち負かす為には正しい智慧・禅定・戒律が必要と説かれた。しかしここでいう「正しい」とは何であろうか。それは「調和のとれた状態」である。この正しさにそれぞれが気付いて、各々が自分の中の煩悩をコントロールしていくことによって、初めて世の中は変えられる。というのは、いくら制度改革をしたところで、意識改革をしなければ原因はそのままで、再び、別の形で同じ問題に行き着くからである。(これを輪廻と呼んでもよい)。
ではその煩悩をコントロールし、「ガン」にさせない為にはどうすればよいのか。それには、「空」に徹し、瞑想や読経の中で、己の精神を正しく組み換えていくことが必要であると答えよう。空とは「何ものにも捉われない状態」のことで、その気持ちにすらも捉われない状態である。「色即是空 空即是色」とも言えるが、『法華経』が説く所の「諸法実相(すべてのあらゆる存在には真実の姿がある)」の「実相」でもある。善い所は出し、悪い所は出さない様にすることが、精神を正しく組み換えるということであり、それこそが真の正しい姿である。そのことでしか、「ガン」という調和を失った状態、つまりほどほどを知ることを忘れた状態を克服していくことが出来ない。
私にとって「この国のガン」とは調和を失った願望のことである。それを克服するためには仏教の論理的な苦を滅する方法を学ぶ必要がある。それは四諦のことであり、八正道のことであり、空に徹することで自分の精神構造体を正しく組み換えて因果の法則(原因があって、つながりがあり、結果があって報いを受けること)と調和していくことを、個々がやっていくことである。