- トップ >
- 続・カルチュアどんぶり >
- #3 山中千尋の極上モルト・カンタービレ

金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年にTBS入社。以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、「筑紫哲也NEWS23」のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を3年間歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。アメリカ総局長・兼・コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。2010年10月からは「報道特集」キャスターを務める。著書に「世紀末モスクワを行く」「ロシアより愛をこめて」「二十三時的」「ホワイトハウスより徒歩5分」「テレビニュースは終わらない」「報道局長業務外日誌」「NY発 それでもオバマは歴史を変える」「沖縄ワジワジー通信」など多数。
#3 山中千尋の極上モルト・カンタービレ
2013/09/23

ニューヨーク在住のピアニスト、山中千尋が率いるニューヨーク・トリオのコンサート・ツアー「モルト・カンタービレ」を紀尾井ホールで聴いた。こんな演奏なら、NYに住んでいるときにちゃんと聴いておけばよかった。「緋牡丹お竜」みたいに(?)片肌脱いだようなドレスでステージに颯爽とあらわれた彼女、演奏中の露出した右肩が強そうにしなっていた。最新アルバムにも収録されているように、クラシックの名曲を「これでどう!文句ある?」とばかり奔放にアレンジして遊ぶさまは、その技巧の高さもさることながら、聴く者をワクワクさせてくれる。これはライブで聴いた方が圧倒的にいい。でもこの日の紀尾井ホールの聴衆は随分とおとなしかったように思う。もっと気持ちを表に出せばいいのに。やっぱりクラシックの殿堂なのかな。「ベートーベンの『エリーゼのために』はちょっとしつこくってストーカーっぽいです」などと紹介したあと、あんなふうに『エリーゼのために』をほとんどオチョクったようにアレンジしているんだから、観客としては素直に笑ってしまえばいいのだ。クラシック音楽の権威主義を脱臼させるようなアレンジで、つまり「山中千尋はエリーゼをこんなふうにやっちゃったんだ。だけど実にクールだね」と。この日僕が最も魅了されたのは『トルコ行進曲』で、逸脱の度合いが実にお洒落で洗練されていた。クラシック音楽ばかりか、ジャズのスタンダード、デイヴ・ブルーベックの『テイク・ファイブ』も同様に彼女流に解釈して演奏した。すごいね。でも『テイク・ファイブ』に関して言えば、僕は以前とんでもないアレンジの『テイク・ファイブ』を聴いたことがあって、それにはちょっと及ばなかったかなあ。それはパキスタンのSachal Studio’s Orchestra の演奏するもので、YouTubeにもアップされているので興味のある方はご覧になってください。
http://www.youtube.com/watch?v=GLF46JKkCNg
それにしても、海外在住のニッポン女子はジャズピアノの分野で元気がいい。NYにいたとき、セントラルパークで開かれたフリーコンサートで、Hiromiが客演で出演したとき、メインのベーシスト、スタンリー・クラークを完全に食っていたシーンはその場にいて驚かされた。山中千尋トリオの演奏もNYでならもっとお客が飛び跳ねていたかもしれない。大阪は受けが東京とは違っていたそうだ。なお、べースの中村やすしが実に切れのいい演奏ぶりだった。極上モルトの夜に感謝!
echo RETURN_TOP; ?>