コロンビア大学漂流記

金平茂紀(かねひら・しげのり)

1953年北海道旭川市生まれ。1977年にTBS入社。以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、「筑紫哲也NEWS23」のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。
報道局長を3年間歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。アメリカ総局長・兼・コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に「世紀末モスクワを行く」「ロシアより愛をこめて」「二十三時的」「ホワイトハウスより徒歩5分」「テレビニュースは終わらない」「報道局長業務外日誌」など多数。

第4回 SchoolIsOut!卒業式に大統領が出席する国

2009/5/20

5月の今頃(第2週)が、大体の大学では卒業式が行われる時期だ。コロンビア大学でも、来週の月曜日からいろんな学部やカレッジで卒業式が行われる。55歳の学生として驚くのは、そういう場所に、著名人が訪れて祝辞(commencement address)を述べる習慣があることだ。ここ、コロンビア大学でも、いろんなレベルで卒業式が行われる。オバマ政権の目玉、ヒラリー・クリントン国務長官をはじめ、司法長官エリック・ホルダーがやってくるほか、シュルツ元国務長官とか、そういうビッグネームがコロンビアにやって来て当たり前のように祝辞を述べる。何を隠そう、僕らの在籍するフェロー・プログラムでさえ、5月9日に「終了式」というのがあった。僕らの身分は学位に無関係な「客員研究員」なので卒業ではない。ただ「終了証」(certification)が授与された。一応、そのセレモニーがあったので参加した。ただ、僕を含めた3人のフェローは5月以降も任期を継続するので、式に参列してクラスメートを見送るという立場になった。

 さて、これから書くのは、そういうアメリカの大学卒業式のなかでも超一級の賓客のことである。バラク・オバマ大統領が今日(5月17日)、カソリック系大学の名門ノートルダム大学の卒業式に参列した。オバマ大統領に名誉学位を授与されることもあってのことだが、この参列自体が実に論争を呼び起こすことになった。カソリックの総本山みたいな所なのだから、中絶問題とか同性婚の立場がオバマと鋭く相いれない人々がいるというわけだ。きのうは反中絶派の大学OB、OG、学生の両親らが、オバマの参列に抗議して何人かが逮捕された。その様子をニュースでみたが、ほとんどが老人だった。実は、先週もオバマはアリゾナ大学の卒業式に参列した。大統領選挙を争ったマケイン候補の地元アリゾナである。オバマは逃げない。それどころか、チャレンジする。すごいと思う。きょうのノートルダム大学での卒業式演説を聞いたが、なかなかこれが素晴らしい内容だった。中絶問題について、自分の立場を押し付けるのではなく、立場、考え方の違いを認めた上で、オバマはこう言ってのけた。

 「中絶に関しては、私たちの考えが一致することはないかもしれません。けれども、この問題が女性にとっては、モラル上、倫理上の、胸が締め付けられるような(heart-wrenching)決断を強いているという認識では一致しているでしょう。ですから、望まない妊娠のために中絶をもとめるような女性が減るように力を合わせようじゃありませんか。さらには女性がいろいろな選択肢が可能なようにしていこうではありませんか。子育てをする女性を支援するような措置を提供していこうではありませんか。」

 綺麗ごとに聞こえるかもしれないけれど、オバマの演説には説得力があった。会場からも大きな拍手が巻き起こった。

 もっとも喫緊な政治的、文化的、社会的なテーマを、自分と意見の異なる人々の渦中に飛び込んで、自分の主張をフェアに述べること。日本の大学ではこのことが可能だろうか? ちなみにミシェル・オバマ夫人もいくつかの大学の卒業式で演説をした。ローラ・ブッシュ前大統領夫人もどこかの大学に出席して演説をしたという。ジョージ・W・ブッシュ前大統領が参列したという話は残念ながら聞こえてこない。当たり前だよな。

 5月19日のコロンビア大学のキャンパスは、図書館前に大きな特設テントが張られ、華やいだ雰囲気がみなぎっていた。卒業生たちは帽子に制服を着ている。工学部の卒業式に続いて、コロンビア大学に付属するBernard女子大の卒業式が行われていたので、そこでみていたが、選ばれた卒業生たちのスピーチがみな素晴らしかった。何とゲストにヒラリー・クリントン国務長官が来ていた。一種のサプライズだったようだ。今夜は遅くまでパーティーが開かれる。

 School Is Out! アメリカの学校制度のよいところだと思うが、卒業式の後は長い長い夏休みが待っている。新学期の9月までは、サマーキャンプなどを除いては学校は休みになる。




1)Bernard 女子大卒業式に参列したヒラリー・クリントン長官


2)コロンビアの卒業生たち

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