- トップ >
- コロンビア大学漂流記 >
- #24 卒業式のパティ・スミス
金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年にTBS入社。以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、「筑紫哲也NEWS23」のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。
報道局長を3年間歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。アメリカ総局長・兼・コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に「世紀末モスクワを行く」「ロシアより愛をこめて」「二十三時的」「ホワイトハウスより徒歩5分」「テレビニュースは終わらない」「報道局長業務外日誌」など多数。
#24 卒業式のパティ・スミス
2010/06/24
Pratt Institute 卒業式のパティ・スミス
高校や大学の卒業式のことをアメリカではCommencementという。直接的には「始まり、開始」を意味する。卒業は終わりではなくて始まりなんだ、という大きな人生観が込められているような気がする。さて、前にもコロンビア大学にやってきた著名人たちのことを書いたことがあるけれど、ニューヨーク・タイムズを読んでいたら、全米のいろいろな大学が、今年の卒業式に呼んだゲストたち(Commencement Speakers)の祝辞集が大きく載っていた。それが実に面白いのだ。
まず顔ぶれの多彩さに驚かされる。オバマ大統領(ウェスト・ポイント士官学校)に加え、ミシェル・オバマ夫人(ジョージ・ワシントン大学)、メリル・ストリープ(女優:バーナード女子大)、ライオネル・リッチー(ミュージシャン:Tuskegee大学)、レイチェル・マドー(テレビキャスター:スミス・カレッジ)、スティーブン・チュー(エネルギー省長官:ワシントン大学)、グレン・ベック(テレビキャスター:リバティ大学)、マイケル・マレン(統合参謀本部議長:フロリダA&M)、エリック・ホールダー(司法長官:コロンビア大学ロースクール)、そして何と、パティ・スミスがいるではないか。Pratt Instituteという建築やデザインの専門大学だ。随分と粋なことをするものだ。祝辞を述べた後に彼女はお祝いの歌を歌っていた。これがアメリカの卒業式で実際にあったことなんだとわかって欲しいので、その時の彼女の映像を添付しておこう。
http://www.youtube.com/watch?v=SLiitTHxnMM&feature=related
さらに、ソニア・ソトマイヨール(最高裁判事:セイント・ローレンス大学)、ジョン・マケイン(上院議員:Ohio Wesleyan大学)。こういう人たちが卒業式の新たな旅立ちに言葉を贈った。
職業に貴賎なし、と口では言いながらも、日本の大学の卒業式にこんな多彩な顔ぶれが並ぶことは考えられない。政治的な立場や職業の違い、主義主張が全く異なっていても、ひとかどのことをやり遂げた人物には敬意を払う。それは新たに旅立っていく若者たちにはとてもよい刺激となるのではないか。この点、日本では、社会と大学との距離がアメリカとはまるで違うのだと思う。メリル・ストリープのことは以前にこの欄でも書いたけれど、誰に卒業式に来て欲しいかの選択には、学生たちの意思が一定程度、反映される仕組みになっているそうだ。だから、式自体が楽しくなる。そういう活力は大切だと思う。
言葉やメッセージはとても大切なものだ。大学が言葉やメッセージを空虚な官僚用語の棒読みにしてはならない、と思う。そういう意識の官僚化から大学人がどれだけ自由になれるか。コロンビア大学に籍をおいて、そういうことを感じることができた。
メリル・ストリープの祝辞ビデオ http://www.youtube.com/watch?v=5-a8QXUAe2g
レイチェル・メドーの祝辞ビデオ http://www.smith.edu/video/commencement2010.php
ミシェル・オバマの祝辞ビデオとテキストhttp://www.gwu.edu/explore/aboutgw/eventscalendars/gwcommencement/firstladymichelleobamacommencementremarks