- トップ >
- コロンビア大学漂流記 >
- #14 ロースクールでさえも就職難だって。
金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年にTBS入社。以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、「筑紫哲也NEWS23」のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。
報道局長を3年間歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。アメリカ総局長・兼・コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に「世紀末モスクワを行く」「ロシアより愛をこめて」「二十三時的」「ホワイトハウスより徒歩5分」「テレビニュースは終わらない」「報道局長業務外日誌」など多数。
#14 ロースクールでさえも就職難だって。
2010/01/29
オバマ大統領が就任してから初めての一本教書演説(1月27日)は、とにかく「雇用創出」のためなら何でもあり、OKという感じの内容だった。
アメリカの雇用統計によれば、アメリカの失業率は09年の12月が10%ということになっているけれど、統計の取り方が日本とは大いに異なっている上、州や地域によるバラつきがあるので、一様には語れないところがある。たとえば都市部のデトロイトでは失業率がもっと高いし、年齢・世代別でも若者層の失業率は10%を上回っており、さらには人種別でも依然として黒人層の失業率は白人層よりはるかに高い。雇用不安は国民生活のすべてのことに関係してくる。だから、オバマはあっさりとそれまでの最優先事項だった医療保険制度改革を、雇用創出の演説の後回しにした。すごいというか、変わり身が早いというか。やっぱり政治家だね。
コロンビア大学にて。こういうオブジェがやたらと多い。
さて、コロンビア大学のロースクールと言えば、アメリカのエリート中のエリートで、ここに入学すれば将来、安定した法律事務所にポジションを得ることができるように思われていたようなところだ。それがこの経済停滞で、コロンビアのロースクールの卒業生でも簡単に職につくことができないという状況になっているという。法律事務所が一気に人を雇うことをストップし始めているという。なぜそんなことが言えるのかというと、コロンビア大学の学生新聞(これがかなりちゃんとしているのだが、最近ページ数がとみに減って薄くなった)「Columbia Spectator」がロースクールの就職難のことを学生たちの嘆きの声とともに報じていたからだ。「Law School No Longer Sure Bet」(ロースクールも最早、安定席じゃない)という記事は、今起きていることの一端を言い当てている。コロンビア大学で日本語を教えていた知人の教員も、先日いきなり大学から契約を更新しないと言い渡されたという。8年間のキャリアのあとにいきなり通告されたそうでショックを受けていた。一方で、80歳を過ぎた教授たちが精力的に今日も学生たちに授業で熱弁をふるっている。大学と言えども、ひとつの経営体なのだから、経済が停滞するといろいろな所にしわ寄せが来る。そしてまるで国境を超えた普遍的な法則のように、弱い部分に、少数派の部分に、犠牲が強いられる。では、希望がないか。
教会みたいな建物も多いし。
春学期になって、学生たちが再びキャンパスで活動を再開した。何度かここで書いてきたけれど、彼らは本当によく学び、よく遊んでいる。僕も今期の授業でとても面白いのに一個、遭遇しているのだけれど、授業の始まるのが何と午後7時半。3時間の授業で終わるのが午後10時半だ。終わったらもうかなり夜も遅い時間帯だ。けれどもその授業内容の濃いこと。この情熱は一体何なのだろうか、と思ってしまう。
これも毎日のように見るオブジェ。
今日は、ハワード・ジンとサリンジャーが亡くなったというニュースが入ってきた日だ。死者を悼む記事・報道がアメリカでは実に手厚い。それはとてもよいことだと思う。日本の酷薄さを思えば、なおさらそのような気になる。さあ、これからその夜遅くまでの授業に出かけることにしよう。