ワンショット劇場

「パイレーツ・ロック」

2009/12/04

今年の作品は今年のうちに…というわけで、今回は慌ててうっかり紹介し忘れていた秀作「パイレーツ・ロック」です。ラブリ~な作品を作り続けているリチャード・カーティス監督の最新作です。

時、ビートルズの全盛期だった1966年。校則違反で高校を退学となったカール(トム・スターリッジ)は人生のやり直しのため、母の友人・クエンティン(ビル・ナイ)の船に預けられます。しかしこの船こそ、当時イギリスで放送を禁じられていたロックミュージックを違法に流していた海賊放送局だったのです。妙な大人たちに囲まれてゴキゲンな生活を堪能していたカール。しかし政府はこの海賊放送船の存在を忌々しく思い、無理筋の法律を駆使して放送中止に追い込もうと画策するのですが。

いや~なんとも痛快なお話です。イギリス人のユーモアってアメリカ人とちょっとちがって毒があるんですよね。その毒を上手く使ってなんとも楽しい作品になっています。いつもは眉間にしわを寄せている役が多いフィリップ・シーモア・ホフマンが人気DJ役を心から楽しんでいるようだし、相変わらずのぶっ飛びぶりを見せているビル・ナイはへんてこダンスまで披露してくれています。同じ監督の「ラブ・アクチュアリー」でも地だか演技だかわからない怪演でしたが今回はそれ以上かも。なんてたって役名がクエンティンですから。

この作品の舞台となったイギリスのお隣の国、フランスでも1970年代に「ラジオではフランス語以外の音楽は全体の何%しか放送してはならぬ」「TV、ラジオでは外来語を使ってはならぬ」といったような、とんでも法律があったのですよ。フランス語を守るためという大義名分はあったのですが、当時の若者からは一斉ブーイングでした。で、パリで暮らしていた当時の若者の私は、トランジスターラジオ(これって死語ですかねえ~)で部屋中を駆け回って米軍の放送やロンドンの民間放送の電波をゲットしようとしていたのです。窓に近くて天井ぐらい高いところに手を伸ばすとわずかに聞こえてきた英語の音楽。禁断のリンゴを口にしたアダムとイブの気分(?)でした。今から思えばばかばかしい努力をしていたのですが、禁止されれば禁止されるほど、聞きたくなるものなんですよね。当たり前ですが今はいかに自分好きのフランスでも、こんなへんてこな法律は廃案となっていますけどね。

街にクリスマスソングが流れている季節、自由に音楽を聴くことが出来る喜びを感じながら、痛快にお上を批判する英国作品を楽しみませんか?

小池由起

映画『パイレーツ・ロック』公式HP http://www.pirates-rock.jp/
10月24日(土)TOHOシネマズ六本木ヒルズ・みゆき座ほか 全国ロードショー

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