ワンショット劇場

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 公開中

2012/02/22

このタイトル、びっくりしました!原題の日本語訳なんですが、一昔前だったらおしゃれな邦題に変身していたかもしれません。しかしこのタイトルは、この作品を理解するためにも重要だということが見た後にわかると思います。そしてもっと心にずっしりきたのはオープニングタイトルでした・・・・。 
 オスカー(トーマス・ホーン)はある日突然大好きだった父(トム・ハンクス)を失ってしまいます。大きな音が苦手、人と接するのも得意ではないオスカーの理解者だった父。父親が突然いなくなってから1年後、オスカーは父のクローゼットの中で、<ブラック>と書かれた袋の中に入っていた古い鍵を見つけます。ブラックとは苗字に違いない、そしてこれは父からの最後のメッセージだと感じたオスカーはこの鍵穴を見つけるべくニューヨーク中のブラックさんを尋ねる計画を実行に移したのですが・・・・。
 知能は高いものの、感受性が人一倍強く、用心深いオスカーは乗り物を使わず、ニューヨークの町を自分の足でブラックさんを探しにいきます。その行動を心配そうに見つめる母(サンドラ・ブロック)そしてオスカーのもう一人の理解者、祖母。この作品の軸になっているのは父親を亡くすという大事件に遭遇したオスカーの喪失感から立ち直る過程です。オスカーは「自分が一番不幸なんだ!誰も自分を理解してくれない」という気持ちから、多くのブラックさんと接している中で、みんな多くの問題を抱えているのに笑顔で接してくれた。だから自分も前に進まなければ父もがっかりするだろうと思い始めるのです。
この作品では、気持ちの変化を<音>で微妙に描写しています。すべてのものにおびえていたころの<音>は必要以上に耳にざわつく、かなり聞いているのが難しいような<音>なんです。地下鉄の轟音、街中の車のクラクション、駅での雑踏・・・・。きっとオスカーにはこのように聞こえているんだなというのが後になって理解できます。後半になると風のそよそよ吹く感じとか、公園での遊び声などが優しく耳に響いてくるのです。「リトル・ダンサー」のスティーブン・ダルドリー監督、やるな~なんて感心していました。
 オスカーの父が亡くなったのはアメリカ同時多発テロ、そうですあの9・11。突然大好きな人を奪われるという状況に遭遇したのは3・11、東日本大震災を経験した多くの日本人も同様です。この作品、アカデミー賞の作品賞にもノミネートされています。喪失と再生がテーマの作品、今の日本にぴったりではないでしょうか?作品賞、とってほしいなあと思っている日本人は私だけではないと思います。

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